人よりも少し、いや、かなり身長が高かった。女の子の平均身長よりも高い自分の目線。周りよりも頭ひとつ飛び出たプリクラや集合写真。周りはモデルみたいだと褒めてくれるが、そうは一向に思えなかった。
 今日も今日とて、周りは流行りの雑誌を広げて、流行りの装飾品の話で盛り上がっている。やれこのヒール高が可愛いだの、やれこのサンダルがいいだの。私には到底関係のある話題ではないのだ。
 私の身長は平均身長よりも高い。ヘタしたら男の子よりも高い。皆で眺めている雑誌でモデルさんが履いているものはそりゃあ可愛い。けれどもヒール高は恐らく7センチ。それを履くことにより、私の好きな人とは同じ視線になってしまうのだろう。ちらりと見やった場所にいる彼は、静かに手の中にある文庫本へと視線を落としている。
『来週親睦会も兼ねて、クラス全員で○×パークに行くことになりました』
 今朝クラス委員から告げられた言葉。キャッキャとはしゃぐクラスメイト。何を着て行こうか。何を履いて行こうか。そんな会話に薄ら笑みを浮かべることしか出来ない。きっと彼も身長の低い子が好きで、私みたいなデカい女はお断りだろう。そっと吐き出した溜息はクラスの喧騒に紛れて、誰にもバレること無く犇めく空気に溶け込んだ。

* * *


 気分は最悪だ。こうなるだろうと分かっていたけれど、周りよりも一回り以上低い足元をわざとらしく鳴らす。振り下ろした踵は予想以上に気の抜けた音を奏でて、周りが奏でるカツカツという甲高い音には到底かなわなかった。
 周りのヒール高はおおよそ6センチ。私が履いてきたパンプスのヒール高、1センチ未満。それなのに彼女たちと視線は同じ。突きつけられた現実に涙が零れ落ちそうだった。
 駅でおおよその人数が集まったため、団体様で○×パークに向かう。足元は軽い。そりゃヒールが低いから。ほかの女の子達が「ヒールあると歩きにくい」なんて笑っているのを横目に、自分の貧相な足を振り上げる。かすっ。やはり気の抜けた足音しか出ない。
「名字さんは」
「へっ!?」
 突然己の右側から聞こえた声に驚きが隠せず、表情や声に驚愕の色が混じった。右隣には私の想い人 ―― 黒子テツヤくん ―― がいた。
「驚かせてしまいましたか」
 そう言って彼は少しだけ申し訳なさそうに笑う。驚いたけれど、この驚きには色んな感情が混ざっていることを彼は知らないのだろう。
 ちょっとだけ驚いたことを伝えると、彼はよかったとつぶやいて言葉を続けた。
「名字さんはヒールのある靴を履かれないんですか?」
「えっ」
「いえ、他の女子たちはみんなそういう靴を履いてるので、気になって」
 彼に他意はないのだろう。けれどもどうしてだろう。少しだけ泣きたいって気持ちが増幅した。
 零れそうになる涙をぐっと飲み込んで「私身長高いから」と答えると、黒子くんは気をつけていないと気が付かない程度に目を見開いて、ほんのすこしだけ考えるような仕草を見せた。
「…ボクは、名字さんは綺麗だからああいうおしゃれな靴とか似合うと思いますよ。本当のモデルさんみたいで」
 同性から何度言われてもグッと来なかったし、心揺さぶられるなんてことはなかった。それなのにどうしてだろう。同じ言葉なのに、彼の薄い唇が紡ぐことによって、こんなにも胸が締め付けられる。こんなにも息が苦しくなる。
 なにか言葉を口にしなくちゃと思うのに、私の口は酸欠状態の魚みたいにパクパクと開閉することしかできない。きっと顔だって真っ赤だ。なのに隣の彼はニッコリと綺麗な笑みを浮かべて「余計なお世話でしたよね」なんて先に歩いて行こうとするじゃないか。ちゃんと伝えなくちゃ、自分の気持ちぐらい。
 そう思った時には思わず彼の腕を掴んでいた。掴まれた彼はもちろんのこと、掴んだ私だって目を丸くしてしまった。
「あ、え、あ…その、こ、今度履くので、よか、ったら…一緒に出掛けませんか…」
 言えた。確認しなくとも分かる。私の体中の血が沸騰してるんじゃなのかってくらい熱い。全身が心臓みたいな感覚でどくどくと脈が打たれる。
 ふっと空気が緩む音がした。いつの間にか視線はまた貧相な足元を見ていたらしく、その音の発生源を見つけるために首がくいっと擡げられた。
「そうですね。個人的にも気になりますし、今度は二人で出掛けましょうか」

瀬野様リクエスト/130119
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