ちくたくちくたく。時計は止まらない。ちくたく、ちくたく …―――。
 時計もデジタル化が進む中、私はアナログな時計の奏でる音が好きだ。一秒たりとも止まることなく、私の前を通り過ぎていく時を実感するからだ。指折り数えた特別な日まであともう少し。何度も確認したカレンダーのはなまるまで、あとどれくらい夢でも貴方を想うのだろうか。おやすみ世界。ちょっとだけ時を早送りして頂戴。

 甲高くなる携帯の音で目が醒める。いつもはマナーモードよろしくな無機物ちゃんの設定を解除したのは、甘い期待を抱いているから。その期待は必ず報われる。彼が裏切ることなんて一度たりともなかったから。
 冬の空気にさらされたディスプレイは酷く冷たい。ひんやりとした感覚と眩しすぎる灯りに目を細めながら、耳元から聞こえてくるやわらかな声に神経を集中させる。

『起きてた?』
「んー…、うん」
 
 嘘つけよ。くすくすという、まあるいくぐもった笑い声の中に彼のオトコのコな色が落とされる。心地いい。その一言で片付けてしまえば何ともないモノなんだけれど、彼の声色は私に無限大のモノを齎すのだ。眠いのかって聞いてくる優しい声に促されてゆうるりと眠気が襲ってくる。大丈夫という使い古された言葉だって、彼の声にかかればピカピカのものになる。私の彼、宮地清志は言葉の魔術師だ。

「てか今何時なのー」
『お前時計見てなかったの』
「うんー。着信音で清志だーって思ってすぐ出たから」

 空気を押し当てられたようなポップ音が耳に届く。すぐに受話器から離れたらしい、彼の咳き込む声が聞こえるので、十中八九さっきのポップ音も彼だろう。つばが変なところにでも入っちゃったのか。微睡みそうな意識の中で彼の言葉を待っていると「お前なー」なんて、今度は呆れた声が聞こえた。

『それさ、天然なの。それとも計算なわけ』
「さあ」
『あーうぜー、はっ倒してえー』
「こんな私も可愛いって思ってるくせに」

 んぐっ、という押し黙る彼の声だって可愛い…のは言わないでおこう。今度は私がくすくすと笑っていると「うるせーうるせー」って照れ隠しする清志らしい言葉が聞こえる。そういう反応もすっごく可愛いよ。

『つーか、こんな話するために電話したんじゃねえよ』
「えー」
『「えー」じゃねえ。…まあ、改めて誕生日おめでとさん』

 ほらね、彼は私の期待を裏切らない。時間もほんのちょっとだけ早送りされたみたいだ。ふふっと微笑みながら感謝の気持ちを伝えると、気持ちがこもってないと少しだけご機嫌ななめになった。
 ほんとはね、すっごくすっごく感謝してるんだよ。もうすぐ始まる大きい大会のために遅くまで練習して帰ってきてるから、今すぐにでも深い眠りに落ちてしまいたいのを堪えて私に電話してきてくれたこととか。なんだかんだで私の誕生日を一番にお祝いしてくれることとか。私と出会ってくれたこととか。
 言い足りないありがとうと大好きは彼の顔を見て伝えたい。「本当に嬉しんだよ」それだけを伝えて、今日はもう寝ようと催促する。最初は腑に落ちないような返事をしていた彼に、追撃とばかりに疲れてるだろうといえば「そうだな」と今度はふっと笑った。

「放課後にプレゼント、お頂戴」
『部活だっつーの』
「待ってるから」
『…あっそ』

 もういいから寝んだろ。彼のことだから耳まで赤く染めているんだろう。ああ、でもこれ以上いじめるとあとが怖いや。「おやすみ」そう告げると彼は優しく微笑んだ気がした。
 おやすみ世界。二度目の眠りはさっきよりも早めに時間を進めてくださいな。一定のリズムしか刻めないのは知っているけれど、一秒でも早く彼に会いたいから。

私のメトロノーム/121212(Happy Birthday Ichi!!)
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