視界いっぱいに、それはそれは端正な顔が広がる。髪の毛は綺麗な金色で、光りに照らされてキラキラとしている。その容姿の持ち主はこれまた綺麗な笑みを作って「名字っち」と私の名前を呼ぶ。ぎょっとする間もなく、私の頭をふわりと撫でて可愛いなどと宣った。いったい何が起きているのだ。相手は我が校が誇るバスケ部レギュラー、そしてキセキの世代の黄瀬涼太じゃないですか。とうとうバスケのしすぎで頭が沸騰したのだろうか。意味がわからないという顔をすれば「本音言っただけっスよ」って、普段から私のこと馬鹿だとかブスだとか言ってくるくせに。あ、いや、ブスは言われたこと無いや。塵ほどに見えた黄瀬の動揺をスルーする。依然として頭は可愛い可愛いと戯言を繰り返す黄瀬に撫でられ…いや、揺さぶられているまま。するとどうだ。今度は我が校が…、ああ面倒臭い、以下略のエース青峰大輝がどすんと音を立てて私の席の前に座るじゃないか。普段は赤司くんの小間使いのような存在の私のそばになんて来やしないくせに。明日は雨か、いや、槍でも降るんだろうか。そんな思いを込めながら彼をじっと見ていれば、彼もまた私をじっと見つめてくる。普段はー…、あ、以下略なのに。「なに」「別に」「いつもは私たちの教室来やしないくせに」「黄瀬に用があった…と思う」なにそれ。今度はすぐ横にいる黄瀬をじとっと見つめれば、彼は彼でにっこりと笑みを浮かべる。なんなのこいつら、意味分かんない。「青峰っち、邪魔っスよー。今はオレと名字っちがラブラブしてるんスから」「は」「ねー名字っちー」いや、近いんですけど。なんなんですか、迫ってこないでくださ、あっ、肩に手を回すないでよ。ラブラブなんぞと死語とも取れるような言い回しで青峰を牽制する黄瀬、をじとりとした目で見つめた青峰と視線が絡む。刹那、彼の利き手が私の頬に触れた。さすがの私でもこれは予期せぬ事態すぎる。ひくっと息を潜めてしまった。「名字って肌きれいだよな」いや、知らんがな。突然どうしたの青峰くん。喉元から飛び出てきそうな私の言葉は、横に居た黄瀬のせいでもう一度体内に戻される。「うわ、青峰っちずるっ。顔に触るの禁止っつったじゃん」「あ?先に触ったのはお前ぇだろ」「オレは髪の毛っスよ」…どういうことだ。なんの応酬だ、これ。意味わからないんですけどーっと声をかけると、4つの瞳が私を射抜く。「「どっちがドキドキした?!」」ぽろりと間抜けな声が漏れる。もしかしてこいつら、人の反応で賭けてやがったんじゃ…。信じられない。その思いはどうやら顔に出ていたらしい。さっきから隣で、だから名字っちに嫌われるかもって言ったじゃないっスかー!とかなんとか喚いている。嫌う嫌わないの前に呆れ返っているだけだ。青峰は青峰でオレのほうがドキドキさせれたと息を巻いているし。正直どっちもどっち、どんぐりの背くらべだよ。そう呟いた私の言葉は彼らに届くはずもなく、騒がしい彼らを止めたのは偶々通りがかった我らが主将様で。説教を受ける彼らの横で、久しぶりに聞いた主将様の怒号がいろんな意味で一番ドキドキしたのはここだけの話だ。
Heart Beat Fight

林檎様リクエスト/121205
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