なんだってあげるよ、

 胸にじんわりと染みこんで温もりを与えてくれた「愛してる」は偽りのものだった。暖かいと思ったものは、いつの間にか冷えて粉々になってしまった。散々わたしの事を弄んだくせに、ただの消耗品だと言われてしまった。お前なんか、ボールペンのようだと、そう言われてしまった。
 つまりは代替品がたくさんあるということなのだろうか。むしろ、私がその代替品だったのかもしれない。彼の愛を一身に受けていたと思っていたが、それは私を通した誰かに向けられていたのかもしれない。そこまで考えて情けなくて泣きそうになってしまった。そこまであの野郎に心奪われてしまったのもやけに腹立たしいことだ。

 まだ幸せをかみしめていたあの頃。彼は私に「愛してる」と甘い呪文を何度も唱えられた。私が腰を落としたソファに、彼も隣で腰を下ろす。思わず肩に頭を傾ければ、彼はゆったりとした手つきで私の頭を撫でる。

「しあわせ」
「…そうか?」
「うん、とっても。…ねえ征十郎、愛してる?」
「そうだな、愛してるよ」

 やわらかな時間が過ぎていると思った。穏やかな笑みを浮かべて私の手を取る彼に、私も釣られて笑みを浮かべる。弦がしなるような音で「名前」と彼は私を呼ぶ。この時間を幸せと呼ばずに何をもって幸せと呼ぶのだろうか。幸せ、しあわせ。口の中で転がすように何度も繰り返す。
 その繰り返した愛してるもただの口先だけのものだった。幸せだと噛み締めた時間も幻想でしかなかった。ちりりと痛んだ胸だけが、私のなかの本物だった。

 窓の下には新しい人形と肩を並べて歩く愛しい人。彼女も捨てられるだけの人間なのに。彼女を以前の自分に重ね合わせて、自嘲にた笑みを浮かべてしまう。どうせまた捨てるのならば、私をずっと拾ってくれてればいいのに。いつだって貴方のすぐ横に行くのに。
 ちゃりっという音が首元から響く。彼からもらった指環は未だに捨てられなくて、私の首元にまとわりついたままだ。ああ、早く捨てられないかな、あの女の子も。

そういうものでしょう


めいか様リクエスト/121202
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テーマ「人外ファンタジー」
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