いけ好かない同僚がいる。周りはやたらと敏腕だの秀才だのと囃し立てているが、私は彼奴のやり方が大嫌いだ。人の弱みに付け込むような、あの視線も言葉も全部。営業マンとしてはお手本なのかもしれないが、人間としては最低だと思う。思わず隣のデスクに座る諏佐に「なんで彼奴が評価されるんだ」と愚痴を漏らせば、彼は苦笑いを浮かべて「世の中は結果が物を言うから」と。諏佐にこういう顔をさせるから、やっぱり嫌いだ。未だにぶうたれる私に、諏佐は呆れたような笑みを浮かべて「飲みに行くか」と誘ってくれた。

 せっかく諏佐が誘ってくれたのに。定時ダッシュしたのに。デスクの上に携帯を忘れてくるなんて、最悪だ。静かな空間だからこそ、私のバタバタという足音はやけに響き渡った。たいていの社員は定時に帰っていて、この時期は残業している社員のほうが少ない。だからこそ一箇所だけ明るいデスクは目立つのだ。そのデスクが誰のもので、誰が残っているのか分かった時には、私の口からは嫌味しか出てきてしまった。

「残業なんてしないと思ってた」
「…それは褒め言葉なんか?」

 嫌味を嫌味とも厭わないような笑みを浮かべて、此方に体を傾ける。今吉翔一。営業課1の成績を保持しており、今社内で一番気にかけられている男だ。そして、私は常にヘラヘラしてるコイツが嫌いだ。「どうですかね」とどちら共とれない態度で携帯を手に立ち去ろうとするも、右手は彼の左手によって捉えられていた。

「帰らんでもええやん」

 彼の手を振りほどこうとしてもピクリとも動きやしない。こういう時に彼が男性なのだと改めて感じてしまって、思わず眉間に力がこもった。人の気も知らないで、こうしていつも。

「帰る。今日は諏佐と飲みに行くの」

 もう一度大きく手を振りほどこうとすると、その腕ごと彼に引っ張られてしまう。彼の膝に倒れこむようになれば、右手で顎を捕まれ彼の真正面に顔を向けられてしまった。ああキスされるな。そう思った時には彼によって唇をついばまれていた。

「彼氏の前で他の男の名前出すなんて、悪いやっちゃなあ」
「彼氏なんて認めたつもりはないんだけど」

 ついばまれ続ける唇を覆うように手を翳す。目の前にあるレンズの向こう側の瞳は、未だに緩いカーブを描きながら此方を見つめている。だからコイツは大嫌いなんだ。そう思った時にはまた唇は彼に捉えられていた。

「悪い子にはお仕置きが必要、やんな?」

逆さに数えるアイラブユウ


棚橋様リクエスト/121125
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