※伊月→リコ表現あります。



「久しぶりだな、2人で出掛けんの」
「高校はバラバラになっちゃったからね」

少しだけ雲のかかった空から降る日差しを受けるサラサラの髪の毛を掻き上げ、あっちぃな、と一言。季節はほぼ夏だ。

幼馴染の俊とは高校へ進学するまではずっと一緒にいて、中学では付き合ってるなんて噂が流れたり。きっと向こうにとってはいい迷惑だったんだろうけど、私にとっては有難い噂だった。

何を隠そう、私は俊の事が小さい頃から好きなのだ。

とはいえ、これでも長い間幼馴染をやってきたし、長い間俊に好意を寄せてきたのだ。誰よりも長い間、彼を見てきたと自負できる私には、彼の好意の矢印が誰に向いているかなんて手に取るようにわかる。そして、それが私に向きっこないことも。

「いくらリコちゃんの気を引きたいからって、誕生日でもないのにプレゼントねぇ…」
「別にいいだろ、いつものお礼ってことでも十分じゃん」

高校が別になった今となっては、確実に彼女のほうが隣に入れる時間が長い。彼の想いを知ってからはちょっとずつ会う機会を減らすようにしたので、雲泥の差があるんだろう。

「にしても、カントクは俺らのことしごき過ぎなんだよな」
「そんなにすごいの?リコちゃん」
「名前は中学の印象しかないだろうけど、あんなもんじゃないぞ」
「ありゃ、鬼監督?」
「鬼畜って感じだな」
「それだけ愛されてるんだよ」
「愛されてるっても、部員と監督って関係じゃあ」
「近くにいれるんだからいいじゃない」

−近くにいれるんだからいいじゃない−

自分で発して思わず苦笑い。まるで今を楽しむために自分に言い聞かせてるようだ。叶わなくてもいい、気持ちが伝えられなくてもいい。この気持ちがバレてしまって気不味くなるより、隣にいれなくなるより、完全に会えなくなってしまうより、耳を塞ぎたくなってしまう話を笑いながら聞いている方が幾分かましだ。

先週のお誘いメールが来てから可愛く見えるように考えたコーディネートは勿論、伸ばしてた髪の毛を肩までの長さに揃えて緩くパーマをかけた髪にすら気づかない程、俊の頭はリコちゃんの事でいっぱいなのかもしれない。ただ一言「似合ってるね」とか「髪型かえたんだ」なんて言葉がほしいだけなのに。そんな事を考える私はまだ恋する乙女としちゃあ、捨てたもんじゃないようだ。

「俊のお嫁さんになる人は幸せ者だろうなぁ」
「なんだよ、急に」
「いや、絶対幸せにしてもらえそうだもの」
「そりゃあ、幸せにしたい人と結婚するだろうしな」

お前もそう言う人と結婚すんだろ?なんて。いま隣にいるのは私なのに、彼の隣は私のものじゃないと言われてるようだ。ツンっと鼻に滲みる様な刺激をかみ殺す。俊の隣で泣くだなんて、みっともない。笑え、笑うんだ、名前。

「そういや誘っといてなんだけどさ、ここから最寄りまでって終電何時だっけ」
「結構遅くまであるみたい。せっかくだし遠出したし、ご飯も食べて帰ろうよ」
「お、いいな。名前と飯食うの久しぶりだな」
「家だけは無駄に近いのにね」
「そうだな」

くつくつと声を潜めて笑う隣を見上げて、あと少しだけ隣にいさせてほしいと願うことは罪でしょうか。もう少しならだけ、笑って隣にいれたら、私は幸せなんです。



(あーあ、私の方が先に好きになったのにな)


私が選んで恋した相手なんだ。辛いなんて言ってられない。きっとこれは私だけじゃなくて俊も一緒なんだ。わかってあげられるのが私だっただけなんだから、背中を押す役目を担うのはきっと私だ。だってずっと俊を見つめて、俊の幸せを願ってきたんだもの。

−−−−−
1000hits第1号・伊月くんです。
隠し設定として
主→伊→リ→日
という一方通行な恋愛があったりなかったり。

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幸せ/ b a c k n u m b e r
120619
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