彼女が他の男と笑っている。相手は大切なチームメイトだということはわかっているし、やましい事なんてひとつもないのだってわかっている。けれども胸にどす黒い蟠りが出来てしまった。イライラが募る帰り道、それとなく黒子に気持ちを打ち明けてみた。するとアイツは鼻で笑って「それは嫉妬っていうんですよ、火神くん」と言い放った。

嫉妬。『嫉妬(しっと)とは、自分と異なるものや、自分から見て良く見えるもの、自分が欲しい(欲しかった)ものなどを持っている相手を快く思わない感情。僻み(ひがみ)、妬み(ねたみ)、嫉み(そねみ)、やっかみ、ヤキモチ、動詞化して「妬(や)く」、などともいう。』もやもやする気持ちと黒子から聞いた単語をそのまま検索エンジンに書き込んだ結果、Wikipediaで出てきた意味は前述の通り。別に当てはまらないだろう、なんて思っていたが、彼女とチームメイトが笑っている姿を想像する。もわっと浮かんでくるのは『そこにいるべきは俺なのに』という感情。自分から見てよく見える状況、自分が欲しい状況を楽しむ相手を快く思わない気持ち。そういうことなのか。冷静に省みてから分かることというのは多いもので。今日の部活で当たり散らしてしまったチームメイトには明日にでも謝ることにしよう。

握りしめたケータイから彼女の名前をはじき出す。いつもならメールで確認をとるのだが、そういう時間すら惜しい。発信ボタンを勢い良く押して、冷たいそれを耳元に当てる。聞こえてくる発信音にイライラとドキドキを乗せて彼女の応答を待つ。いつもこの数十秒がもどかしくてたまらない。

『もしもーし』
「名前?」
『はい、名前ちゃんのケータイですよ』

大我が予告もなく電話するなんて珍しいね。そう言って電話の向こう側の彼女が笑った。本当はいますぐにでも彼女に会いに行きたいのに、自分とは違って家族と住んでいる彼女を夜分遅くに呼び出すなんて不可能で。きっともうお風呂にも入って、優しいフローラルを漂わせてるんだろうな。出来る事なら、そんな彼女を抱きしめて胸のつっかえを無くしたいな。

「あのよー」
『はいよー』
「部活中に俺以外と話すのすげえ嫌なんだけど」
『…は?』

馬鹿じゃないの。何言ってるのこの人は。そんなニュアンスを含んだ音色に苦笑いが漏れる。しょうもない独占欲は、時に正常な判断力をも鈍らせるのか。小さな機械の向こう側はうーんと唸る。真剣に考えているようにみせる素振りは、既に彼女の中で応えが決まっている時の癖だと、彼女と付き合いだして数週間後に気付いた。

『無理でしょ、どう考えても。私マネージャーだよ』
「だよな」
『なに大我、嫉妬?』
「おう」
『だよねー…って、え、まじで?』

一言素直に口にすれば、あとは芋づる式で言葉にできるというわけだ。先輩たちと必要以上にしゃべらないで。部員に必要以上に近づかないで。無防備な笑顔を見せないで。我儘と表裏な言葉たちを彼女は甘んじて受け入れる。それが彼女の母性だと気づくのはまだ先の話でいい。全ての言葉を聞き終えた彼女は小さく笑って『大我は我儘っ子だね』と言った。

『自分に素直なタイガーって感じ』
「なんだそれ」
『嫌いじゃないよ、大我のそういうところ』
「好きでもねえってか」
『ううん。好きよ、大我』

甘い響きは鼓膜にすうっと広がっていく。何度聞いてもうっとりしてしまう言葉に、唇は自然と「もう一度」をつぶやいていた。好き、好きよ、大好きよ。繰り返し奏でられる甘ったるいハーモニーに口元はゆっくりとカーブを描いた。だけど、まだ我儘が言えるならば直接彼女の顔を見て聞きたい。

『「会いたい」…でしょ?』
「なんでもお見通しってか」

くすくすというこそばゆい笑い声。それがフェードアウトした後に彼女が続けた『私が甘い言葉をあげるのは大我にだけよ』の言葉。つまり彼らにあげることはないから安心してちょうだいということだ。ああ、何だか自分がとても醜く意地汚い男に思えてきたよ。そんな気持ちを込めた溜息は彼女の耳元にも届いてしまったらしい。またくすくすという笑い声が響いた。

jealousic park
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『嫉妬してくれたの、実はすっごく嬉しいって言ったら笑う?』

なづき様リクエスト/121114
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