今日は年に一度の俺の日、なんて大袈裟かもしれない。でも気分はそんな感じだ。日付が変わった頃から続々と届く「お誕生日おめでとう」という言葉に、愛されてるなぁ、とか思っちゃったり。


「なんですけど、届かないんスよ!」
「何がだよ!それだけ大量に祝われたら十分だろうが!」
「笠松先輩、わかってないっス!てか、まだ先輩にも祝って貰ってない!!!」
「あー、ハイハイ、おめでとうおめでとう」
「うっ…、ありがとうございます…」
「で、何がわかってないって?」


朝練時にも届く祝いの声や品物に改めて自分の人気っぷり?を確信する。部活の先輩達には蔑ろにされつつも、なんだかんだで覚えてくれてたりして口元が緩む。

が、しかし、俺の気分はそれだけでは覆せない程、底辺を這っているのだ。


「俺、誠凛に彼女いるんス」
「はぁあぁぁ?!」
「あれ?言ってなかったっスか?」
「聞いてねぇよ、初耳だよ」
「まぁ、そこは置いといて欲しいんスけど…その彼女からまだ電話はおろか、メールすら届かないんス…」
「忘れられてんのか、嫌われたんじゃねぇのか?」
「酷い!先輩もっとオブラートに包んで!」


そうだ、俺の誕生日が始まってから優に4分の1日が過ぎた。彼女なら0時0分0秒に電話かけてくるタイプだ。それが今でもなんの音沙汰もない。


「はぁ…もうダメっス。俺の誕生日がおれと名前の破局記念日だなんて…」
「そんなに落ち込むな…まだ決まったわけじゃないだろう」
「なになに?黄瀬振られたの?んなら、合コンでも企画しない?」
「森山はちょっと黙ってろ」


それからも時間というものは残酷で、ただただ流れて行く。勿論、悲しきかな、授業中も休み時間と思われる時も連絡はない。一週間前まであんなに可愛く俺の事が好きだと頬を染めていた彼女なのに、嫌われるなんて…。その好きも思い返せば、半ば俺が無理矢理言わせたとも取れる。( やべっ、あの日のシチュエーション思い出したらムラッとした)


「なんで今日に限って仕事もない上に、部活も休みなんスか…」
「なんでテメーがここに居んだよ!」
「僕が呼びました。あまりにもメールがめんどくさ…、くるので」
「あー…、おう」


黒子っちや火神っちに今日の彼女はどうなのかというメールを送っていたら、2人がよく行くというマジバへと呼び出された。しかし一向に彼女の足取りは掴めない。


「やっぱ俺、嫌われちゃったんスかね…この前(ピーーーーーー)を(ピーーーーーー)して(ピーーーーーー)させたのがいけなかったんスか…」
「落ち込みながら規制音出るような単語発さないで下さい。ほら、火神くんが固まってます」
「黄瀬、おまっ、まっ…!!?」
「というか、名字さんにそんな事を強要したんですか。引きます」
「確かに引くわ」
「ふっ、二人とも酷いっス…!」


シェイクを飲みながら淡々と話す黒子っちは相変わらず図星をつく。今回も「そんなに気になるなら、自分から連絡すればいいじゃないですか」と言われ、思わず蛙の潰れたような声が出た。


「だって…癪じゃないっスか。今日は俺の誕生日なのに」
「お前、女々っちいんだな」
「火神っち、うるさいっス」

「やっぱり、涼太くんだ」


テーブルに顎を乗せ、ぶーたれていると、今日一日聞きたくて仕方なかった声が上の方から降ってきた。飛び上がるように半身を上げると、誠凛の夏服に身を包んだ愛らしい彼女がいた。

「涼太くん家に向かおうとしたら、そこの通りから涼太くん達が見えてね。ちょうど良かったから立ち寄っちゃった」

そう言って笑う彼女に今までのモヤモヤがすっと晴れて行く感覚がした。なんとなくそれを察したのかどうかはわからないけど、黒子っちが「そしたら黄瀬くんと一緒にお家にどうぞ」と送り出してくれた。火神っちの名前を憐れむ様な顔はこの際見なかった事にする。(きっとあの事を想像したに違いない)


「というか、連絡も無しにうちに来て、俺がいなかったらどうするつもりだったんスか?」
「涼太くんいなかったら、ほら、この前貰った鍵で中に…って、え?私、メールしたよ?」
「来てないっス。今日一日待ち侘びてたのに、一回も連絡なかった」


うっそー…なんて呟きながら、ポケットの携帯を取り出す彼女。さっきの言葉には嘘偽りなく、本当に待ち侘びていたんだ。彼女からの連絡はすぐにわかるようにしているんだ。だから連絡が来ていないのは確かなのだ。そんな事を思っていると、隣から「あっ」と何かを見つけたような声がした。


「ごめん、涼太くん。未送信になってた…」
「未送信…」
「0時ぴったりに送ったつもりだった…」
「つもり…」


「涼太くんからの返信がないから、おかしいなぁとは思ってたんだけど」と慌てる彼女を横目に、これだけ待たされたのだ。今日は何しても…いや、ナニしても許されるはずだ。なんて考えてる俺は本当に下衆い。


「とりあえず、一言祝ってくれないんスか?」
「そ、そうだ!…お誕生日おめでとうございます、涼太くん」
「はい、ありがとう。で、今日のお詫びは?」
「おわっ?!…ひとつだけなら、言う事を聞きます」


きっと犬のようならば、目の前の彼女は耳と尻尾を垂らしながら涙目になっているんだろうか。そうだ、今日は犬耳なんてどうだろう。普段は犬っぽいと言われる俺より犬っぽい彼女を思い浮かべながら、2人手を繋ぎ帰路を歩く。




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HAPPY BIRTHDAY!!
120618
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