高校に入って一目惚れして、ダメ元で告白したら、いつの間にか彼氏ができた。って言い方も変だけれど、隣の席の高尾くんは「名字と先輩が付き合うなんてな」と笑っていた。確かになって私も思う。見た目だって、後ろの席の緑間くんみたいな美人さんでもないし、どちらかと言えば平々凡々な顔つきしてるし。更に言っちゃえば先輩の方が美人な顔だし。バスケ部だからよくあることかもしれないけれど、身長も高くてスラっとしてる。頭もいいし、スポーツも出来る。品行方正、眉目秀麗、質実剛健。全てが彼にはピタっと当てはまる、と私は考える。彼女の贔屓目もあるって言われれば其処までだが、私が知っている清志先輩は本当に優しくて、格好良くて、理想を超越した人なのだ。

 と、そのように後ろの席の緑間くんに宣ったら「お前は宮地先輩に騙されているのだよ」と頭をぐわんぐわんスイングさせられた。お昼休みとはいえ食後だったため、なかなかの具合の悪さに嘔吐の真似事をすれば、彼の顔がさっと青く染まった。これはこれで面白い。慌てながら彼が私のことを介抱してくれたのが、実はからかっていたというのは内緒。ついでにいうなら、介抱しているところを先輩が目撃してしまったらしく、どうやらその日の部活でこってり絞られたらしい。翌朝不機嫌を隠しもしない彼が私を見つけて「お前のせいなのだよ」と怒られてしまったのも内緒にしててあげよう。

 お付き合いしてもらってからの今までを考えていると、私はなんて愛されているんだろうという結論に至りそうなのだが、実を言うと今まで手すら繋いだことがないのだ。…訂正、手だけはぎりぎりある。夏のインターハイ後、この機会を逃せば暫くふたりでデートできないだろうとかなんとかで出かけた花火大会。はぐれそうな私の手を彼が引いてくれた…、ことしかない。今もこうして並んで帰っているというのに。右手は彼のために空けているというのに。少し冷えだした空気を何度も切る私の小さな手のひらは、ほんのり赤みを増していた。「寒くなってきてんなー」同じようにほんのり赤くなった鼻をすすりつつ、彼が言葉を紡ぐ。同意するような声を出せば、くすくすと彼が笑って。とても幸せな空間なのに、何故だかとっても物足りない。更に上、もっとうえを望んでしまう私を貴方は意地汚いと笑うでしょうか。「あー、もうすぐウィンターカップだわ」「うぃんたあ?」「冬のでっけえ大会」「へぇー…」バスケに関してはド素人な私に、彼はいつも優しく教授してくれる。さすが学年上位の成績優秀者は違うなあ、なんて感心していると「それが終われば、俺も受験生ってわけだ」なんて現実を叩きつける声。しょんぼりとした自分を噛み殺すように「そうですね」と返す。もう冬はすぐそこまでやってきていた。

 彼は某有名国立大学を目指しているらしい。私の学力では到底目指せ無いし、なによりこの年の差が恨めしい。彼と登下校できるのは、この一年足らずという短い期間だけ。この通学路だって、あと何回肩を並べて歩けるのだろうか。不意に襲ってきた寂しさに足元の小さな石ころを蹴飛ばしてみる。「名前」見なくちゃいけないのに、見ようとしてなかった現実も一緒に蹴飛ばしたかったのに、落ちてきたのは優しい彼の声で。弾かれたようにそちらを見上げれば、私の気持ちすべてを汲み取ってしまったような蜂蜜色と視線が絡んだ。「どうした?」「え、」「…ごめんな、こういう話とか、さ」殆ど西に沈んでしまいそうな橙色が、色素の薄い彼の髪の毛を照らして、きらきらと乱反射する。ハニーレモンよりも暖かくて、メープルよりも甘い彼の愛情に気付けなかったのは私なのだろうか。いつの間にか右手には二人分の体温が宿っていたのに。寂しさで孤独の殻に隠ろうとしていたのは私だったのに。包まれた右手を緩く握り返す。ぴくっと反応を示した彼が「二回目、だよな」とホットミルクに蜂蜜を落としたような温かい笑みを溢す。「寂しいんですよ」「え、」「もっとわかりやすい愛情くれないと、先輩と離れちゃうから」甘ったるいココアのバスタブに沈んじゃうみたいに、もっともっと彼の甘さに溺れたいのかもしれない。そう思いながら、そっとキスを強請るような仕草を見せれば、彼の耳がショートケーキの上に鎮座したいちごよりも赤く染まって、私まで頬に熱を持ってしまった。

 ということを高尾くんと緑間くんに逐一報告していたら「今なら砂糖吐ける」「奇遇だな、高尾。俺もだ」と二人して顔を赤く…、いや青くしていた。はてはて、彼らの中の宮地清志とは一体どんな位置づけなのだろうか。

仕上げは砂糖


いちご様リクエスト/121106
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