「んで、俺がこうやってダンク決めようとしたら青峰っちがこうしてブロックしてきて」
「へぇ…」


昨日の今日でよく話かけれるな。
頭の中はその言葉一色である。必死に青峰くんと昨日行った1on1の様子を語りながら隣を歩く黄瀬を見上げる。いつもと変わらずこいつの頭は中も外も煌びやかだ。勿論、これは褒め言葉ではない。ふぅ、っと少しだけ溜息を吐きつつ、昨日黄瀬から投げられた言葉を思い出した。


『好きっス、名前っちのこと』
『え、えー…?わ、わたし?』
『わたし以外、俺の前に人はいないんスよ?』
『あー…、だよね、うん。』


人気の無い空き教室で、少しだけ頬を染め、いつもより真剣な黄瀬が放った私への好意。いままで私達の間には流れた事の無い、甘い空気が渦を巻いた気がしたのを思い出す。そして、私はこの男を振ったのだ。『黄瀬をそんな目で見た事はない。これからも見れる気がしない。だから、ごめん』そう言うと、黄瀬はちょっとだけ眉を下げて『今まで女の子には振られた事なかったんスよ。名前っちがハジメテ』と嫌味を零したのも記憶に新しい。

そう、昨日こいつは私に告白した。そして私達は振り振られた間柄だ。少しばかり気まずい空気が流れるものだ…と思っていたのは、どうやら私だけらしい。いつもと変わらない笑顔でバスケの事を話す黄瀬が憎い。そんな事を考えながら歩を進めていた。


「どーしたンスか?今日は黙ってばっかで」
「…いや、よく昨日の今日で私に話しかける気になったなって、思って」
「別に毎日話してるじゃないっスか」
「そうじゃなくて、ほら、私、昨日あんたを振ったんだよ」


最後はぽそぽそと言葉がフェードアウトしていくのが自分でもわかった。なにやってんだろ、私から黄瀬の傷を抉り返す様な真似しちゃって。当の黄瀬は頬をぽりっと掻き「あー、それ…」と明後日の方を見上げた。


「確かに俺は昨日、名前っちに振られた」
「うん」
「だからって、簡単に諦めれる程の半端な気持ちじゃなくて」
「…うん」
「本気なんス。絶対振り向かすって思って」
「…うん?」


私が疑問符をつけ返答すると、黄瀬は笑いながら「わかんないっスか?」と聞いてきた。馬鹿か、こいつは。わかっていたら疑問符なんぞつけた様な返事なんてするか。


「もう俺が名前っちの事好きってのは、名前っちも知ってるでしょ?」
「ばっ!!!…かじゃないの…昨日告白してきたくせに…」
「だーかーら、もう名前っちに遠回しなアタックなんてする必要ないって事で。今日からは俺の事好きになってもらうために全力っス」


太陽を背に、にっこりと笑いながら言い放った黄瀬の顔が直視できない。本当に馬鹿だ、こいつ。これからも見れる気がしないって断ったのに。
「ほんと、ばっかじゃないの」
ぼそりと呟き、歩みを速めると慌てて追いかける音が聴こえた。



ああ、歩みと共にスピードを上げた心臓と私の頬の赤みがこいつにバレませんように。

−−−−−
似非黄瀬。
語尾に「っス」ってつければ
それとなく、ね。
0616
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