ふかふかのベッドの上。ロベルト・シューマンのトロイメライを聞きながら、背中合わせに読書に励む真太郎の音を聞く。かさっと音を立てて、彼の綺麗な指がページをめくる音。呼吸をする音。あ、息が詰まった。今は物語の山場なのかもしれない。背中から聞こえる心音がレコード機器から流れるトロイメライとマッチングしていて、心地良い眠気を誘う。くっと込み上げてくる欠伸を噛み殺して、流れてきそうな涙もこらえる。ニンゲンの構造上、目と鼻は繋がっているので、鼻腔に流れてきた水分を仕方なしにずっと啜る。突然の音にびっくりしたらしい大きな背中はビクリと反応した。

「やだ、真太郎。びっくりさせちゃった?」
「…吃驚などしていない」
「背中ぴくってしたよ」
「お前が動いただけだ」
「あらら」

 くすくすと私が笑う反動で彼も揺れているのだろう。そんなに揺れたら読めないとかなんとか、文句を垂れているが、そんなの無視無視。
 実を言うと、彼に放置を食らって彼の奏でる音を聴きだして数時間経っている。子供の情景、Kinderszenen Op.15を何回通して聞いたことだろう。私の夢の世界は広がっては狭まり、広がっては狭まり、そしてまた広がりだす。17分強を何度も何度もリピートして、一人時間を潰していたというのに。

「ねえ、飽きた」
「何が、だ」
「シューマンもトロイメライも一人遊びも」
「そうか」
「構って」

 ぱたん。彼が読んでいたであろう、分厚い本が閉じられた音がした。思わず緩んだ口端をきゅっと結び直して、彼の次の行動を待つ。忠犬名前とでもお呼び下さい。あ、でも言うことを聞くのは真太郎の命令のときだけよ。背中の温もりは彼が立ち上がったことで消え、シューマンも彼の手で止められて。いつの間にか対峙していた、ビー玉みたいな緑色の瞳に、期待に満ちた私の顔が映り込む。どちらかというと、期待に満ちた女性の顔、だろうか。欲情するとは、こういう表情か。

「なんて顔してるんだ」
「ヨクジョーしてます」
「ここは我が家だ」
「存じております」
「まだ日が出ている」
「木漏れ日が温かいですね」
「で、お前は」
「真太郎とまぐわいたい、かな」

 最後はくすりと笑って伝えた。ふんと鼻で笑われた後に、体を傾けられていく。耳朶に小さなキスを落としながら「目が合うと書いて、目合うだ。お前はそれだけでセックスした気分になれるのか」と。そんなの不可能に決まってるじゃない。
 彼の首元にそっと回した腕がその答え、ってことで此処はひとつ手を打ってダーリン。
欲しがる

M子様リクエスト/121009
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