※百合です。


二人だけの真ん中記念日。私はとうとう彼女にプロポーズした。最初は至極驚いたような顔をしていたが、次第に頬を赤くして彼女は首を縦に振ってくれた。世界一幸せ、私達、きっとだれよりも。「せっかくだから幸せを形にしよう」と、薄っぺらい紙を取り出して、それを彼女に見せてあげた。これまた彼女は驚いた表情を見せたが「そうね」と笑って、普段はノートやスコアブックに走らせるボールペンを手にした。彼女の書く字はとても綺麗だ。まるで彼女の心そのもの。「リコの字、やっぱり好きだわ」って笑えば、「字だけ?」なんて唇を尖らして。ああ、その唇、貪りたいわ。相田リコと書かれた上の欄には、すでに名字名前の文字。私達じゃ指輪なんて大層なものはまだ買えないから、互いの薬指で契を交わしましょう。紅い湖に互いの左薬指を沈めて、薄い紙に痕を残す。二人分の指印が並べば、それは立派な婚姻届。まだ色々と不備があるけれど、二人だけのエデンを作るには十分すぎるものだ。ティッシュで残った紅を拭き取り、美しい二人の花園を見つめる。幸せね、私達。肩に重みを感じ、不思議に思い視線を向ければ、リコが頭を此方に預けていた。上目遣いの彼女と瞳が絡んだ時、それはキスの合図。ゆっくりと近づく彼女の柔らかな場所に、己の欲望を押し付けた。キスも出来る。手をつなぐことも出来る。想い合う事もできる。セックスだって出来る。なのにどうしてだろう、二人の愛は認められない。「誓いのキス」って唇を舐めて上げれば、彼女はくすぐったそうに身を捩るのに。どうしてだろう。私たちは夫婦になれない。「子供も欲しいね」「出来るかしら」「私とリコの結婚が認められる頃には、同性同士でも子供が出来るようになるのよ」無謀を沢山並べているのに、彼女は嫌な顔ひとつしなかった。それどころか「そんなに長い間、私と一緒にいてくれるのね」と微笑むのだ。愛しいという感情は彼女に向けるためにそん材するのかもしれない。自由の利く腕をもう一度だけ、二人のエデンに向けて伸ばす。二人分の名前を指でなぞって、彼女の名前を体に刻み込む。「今、この瞬間なら、私達が一番幸せね」ぽろりと零れた言葉に、彼女は肯定のしぐさをみせた。なのに、どうしてだろう。その表情は、とても幸せを噛み締めたものではなかった。揺れる瞳に映った私も泣きそうな顔をしていて。二人の世界の全てが暗転してしまったのだ。
枯れ

(121006)
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -