これの続き


黄瀬涼太。彼とは中学時代からの付き合いである。どうやらほとんどのスポーツは出来る自分に辟易していたらしい彼は、繰り返される日常に退屈していた。そんなところに現れたうちのバスケ部のエース。真似できっこない姿に憧れるがまま、彼は入部届を握りしめ、バスケ部の門を叩いた。
飲み込みは早かったものの、粒ぞろいのうちのレギュラー陣の中では下っ端…と言ってもおかしくない。人気としては、持ち前の見た目の良さもあり、エースと五分五分、といったところだったが。あの頃の彼はとにかくバスケが好きだった。というのが傍目から見ていても、よくわかった。

そんな中で出来た彼女が名字名前。うちの一軍マネージャーだ。身内の贔屓目を抜きにしても、とても良い子で、彼には少しばかり勿体無いような気がしていた。まあ、それをいい意味で裏切るかのような彼らの仲睦まじい姿に部員は皆、安堵の溜息を吐いた。
高校に入学してからは深くは知らないのだが、たまに来る彼らからのメールには以前と変わらないような事が書いてあった。変わったことといえば、黄瀬のモデル業が忙しくなったこと。名前がマネージャーではなく、別の部活動に入部したこと。ぐらいだろうか。

片鱗はなかったわけではない。気づかぬふりして、わざと手から零していたのかもしれない。信じたくなかったのかもしれない。互いのことを目に入れても痛くないようなくらいに愛し合っていた彼らの関係にほころびが生じたなんて、ありえないと思い込んでいたのかもしれない。

名前からの連絡が増えたのは、彼らが大学に進学してから。ちょうど黄瀬の人気が右肩上がりになってきて、それに比例するようにスキャンダルも増えた頃だ。
最初は泣きながら電話することが多かった。「赤司くんどうしよう」「連絡もとれないの」「赤司くん」機械越しでも分かる彼女の嗚咽に、優しい言葉で慰めることしか出来ない距離をどれだけ恨んだことか。
数回続いた後、とうとう彼女は涙を流さなくなった。淡々とした、感情の起伏のない声で「別れたほうがいいのかな」と何度も口にした。その度に「ゆっくり考えるんだ」なんて、大人ぶった台詞で彼女を慰めていた。

もしかすると、ゆっくり考えていたのは此方だったのかもしれない。


「俺ら結婚することになったっス」
「…そうか」
「もっと驚きとかないんスかー…」
「驚くもなにも、名前からそれっぽい事を聞いていたからね」
「えっ、赤司くんってばあれでわかっちゃったの?」

互いの左薬指にお揃いのリングを召した彼らと対面に座る。しばらくは話に聞くだけだったが、今目にする彼らは以前のような雰囲気を醸していた。つまりは元通りになったのだ。

「つーか、まぁだ名前は赤司っちに連絡してるんスか」
「…つい、…癖で、」
「そういう癖はいらねえっスよ。だいた」
「で、事務所には説明しているのか?」

彼の言葉にかぶせるように言葉を発してしまった。しかも、無意識のうちに。少しだけ驚いたような顔をする二人。急かすように「どうなんだ?」ともう一度問いかければ、正気を取り戻した黄瀬が言葉を続けた。

「ちゃんと説明したっスよ。社長にも頭下げたし、会見の日程もきまったっス」
「順調、なんだな…」
「もちろん。もう二度と泣かせねえって誓ったんスから」

顔を向き合わせて笑みを浮かべる彼らには、もう何のほころびも見えない。

京都を観光してから帰るといった彼らの後ろ姿は、夫婦そのものだった。背景には花が舞い、蝶が舞い。幸せと呼べるものが其処には存在していて、世界の全てが彼らを祝福しているように見えた。僕以外の、全てが。

の祝をあげる
頭を垂れて、おめでとうなんて言うもんか


れいみ様リクエスト/121003
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -