このお話内の設定です。


とある日曜日。今日は黄瀬が所属するバスケ部の練習もオフ。そして名前のバイトも休み。久しぶりに二人でゆったりと過ごせる休日だ。とはいえ、日頃の早起きの癖が出てしまったのだろう。珍しく名前よりも早く目覚めてしまった黄瀬は、どこか楽しげに彼女の寝顔を見つめている。彼女の髪を梳かす手つきも優しげだ。

「名前〜、起きて〜…涼太くん暇だよ〜、襲っちゃうよ〜」

訂正。やらしい、だ。耳元で囁く彼を鬱陶しく思ったのだろう。名前の手が黄瀬の顔を撥ね除けた。「ふぐぅ」という情けない声を出した後、何かが吹っ切れたらしい彼は、重なるようにして彼女に跨った。刹那、何度も何度も啄むようなキスを繰り返す。時折彼女の名前を呼ぶのは完全に彼の趣味だ。朝から元気な自身の化身が反応を示したことに彼の口端が上がる。

「〜〜〜っ、盛ってんじゃないわよ、犬か!」

ガンっという勢いの良い音と共に、彼の化身に痛みが走る。股間を押さえ悶絶する彼を他所に、名前はいそいそと着替えを始める。ここで一つだけ謝らねばならいことがある。先程から朝、といっているが…現在の時刻はとうに11時を過ぎている。つまり名前が「早く起きたなら朝ごはんぐらい作ってよね」といっているが、朝ごはんの時間はとっくの昔に過ぎてしまっていた、ということだ。

結局二人で簡単な朝食兼昼食を食べることになった。朝から痛いお仕置きを受けた黄瀬はぶうたれていたが、名前のきつい睨みにより、しゅんと見えない耳を垂らした。

「さーってと、洗濯しないと…」
「じゃあ俺も」
「涼太は洗い物しててください」
「えー…」
「家事は分担するって約束でしょ?」

ほら。そういって彼女が見せた当番表は、今週は黄瀬が掃除、名前が洗濯物という場所を示していた。料理は彼女の専売特許…ってわけでもないが、彼が作るよりも何倍も美味しい名前の料理に、黄瀬が頑なに作りたがらないだけである。少しだけ苦い顔をした彼だったが、渋々返事をすれば彼女にまた叩かれる。そう確信し、「分かってますよ」と席をたった。

彼女の洗濯物を干す音、彼が掃除機をかける音。ベランダで二人分の洗濯物を干しながら笑顔を浮かべる彼女を見て、「結婚したらこんな時間が何度も訪れるのだろうか」などと考えながら、黄瀬はそそくさと掃除機をかける。ちらりと視線を目を合わせて笑う彼女に幸せをもらっている、だなんて言いすぎだろうか。

晩御飯の買い物に行こうとした名前を黄瀬が止めに入る。今日は有り合わせでいいから、二人でDVDを見ようとのことだった。それでもいいならと彼の優しさに甘えた彼女は、そっと彼の横に腰を下ろす。DVDをセットすれば、流れてきたのは話題の恋愛映画。それはずっと名前が観に行きたいと言っていたものである。しかしながら、黄瀬は腐っても人気モデル。彼と映画館に出掛けるということは、それこそある意味では死活問題なのだ。まさか覚えているとは思わなかった名前は、彼の優しさにそっと寄り掛かることにした。もちろんそんな名前に彼が心の中でグッとガッツボーズを決めたことは言うまでもない。


いつの間にか眠っていたらしい名前が目を覚ますと、あたりにはカレーを思わせる匂いが充満していた。隣にあった温もりはここにあらず。慌ててキョロキョロと探すと、その姿はキッチンに在った。彼女と目を合わせた黄瀬はひらりと手を振って「たまには作ってみたっスよ」と笑う。胸が暖かくなる感覚に、彼女の足はまっすぐと彼を目指した。鍋をかき回す彼の背中に思い切り抱き着けば、お玉がカランと音をたてた。

「ど、どうしたんスか…」
「たまには甘えてみたいなって」
「…珍しいこともあるんスね」

もう一度お玉を握り直した黄瀬が空いた方の手で彼女の手を撫でる。鼻腔を通る黄瀬の匂いに彼女の腕が更にきつくなった。

「ありがとう」

これも以前、彼女が「たまには涼太もご飯作ってよね」と訴えていた。まさかこの事までしっかり覚えているとは思いもよらなかった。日頃の感謝も込めてくっついていれば、背中を通してくすくすと笑う音が聞こえる。二人に幸せな時間が流れだした。

「たまには甘えられんのもいいっスね」
「そう?」
「あ、お礼は夜にでも」
「調子のんな」

To your love.


茶倉様リクエスト/120929
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