憧れだった先輩と付き合いだした。私の告白に笑顔で頷いた先輩。その瞬間、まるで夢の世界に迷い込んだ気分だった。キラキラと輝く彼を取り巻く風も、これからよろしくなんて奏でる声も。この世で一番甘美なものに感じれる場所に立てるのは、あの時から私だけになったのだ。

されども、現実はそんなに甘くないといいますか。お付き合いを初めて早2ヶ月がたった今も、私と彼はプラトニックな関係を続けている。性欲旺盛な思春期男子のくせに、押し倒してくることはおろか、キスもせがまれない。さらに言えば、未だに手すら繋いでいないのだ。一緒に帰ることになっても十数センチ開いた距離は縮まらない。何故だか、それはいくら努力しても縮まらない年の差にも思えて少し泣ける。今日も一緒に帰ることとなったとはいえ、お付き合い以前と同じ距離を保ったまま、繋がれたいと思う右手をぷらぷらさせて彼の隣を歩く。楽しそうに今日の部活での出来事を話す、宙を彷徨う彼の左手を掠める度に心臓がドキッと跳ね上がる。繋ぎたい、繋ぎたい、繋ぎたい。そんな邪な思いが脳内を占め出したせいか、順調に歩んでいたはずの足が縺れてしまった。

「おっと」

初めてのキスはコンクリート…とおもいきや、前のめりになる私の腕を引っ張り上げる大きな影。「間一髪ってやつだな」なんて微笑む顔にまた心臓が高鳴る。

「すいません…」
「いやいや、何か考え事?」
「いえ、しょうもないことなので」
「そうか?それにしても、相変わらず名前は危なっかしいなあ」

にこにこと笑いながら掴まれていた腕は、いつの間にか彼の大きな手の中に絡められる。あ、れ…つないでる。その事実に、これまた心臓が跳ね上がる。相変わらずなのは貴方もです、木吉先輩。「あ、いやか?」って、嫌なわけないです。だって、ずっと望んでたことですから。いわゆる恋人つなぎをされた右手にきゅっと力を込める。どきどきする感情も暖かくなる心も全部伝わっちゃってもいいのにな。もう一度だけ、確かめるように握り直せば、隣の彼は少しだけ目を丸くした。直後に「可愛い奴め」とくしゃくしゃの笑顔で言われてしまった。馬鹿だなあ、可愛いってのは先輩みたいな笑顔の人をいうのに。
覚めないであれ

まてみ様リクエスト/120906
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テーマ「人外ファンタジー」
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