人間、予想外の出来事に出くわしてしまった時の反応は皆同じだと、私はそう考える。 まず、目を見張る。それはそれは大きく、目ん玉こぼれ落ちるほど丸く。眼球の水分が枯渇してしまうんじゃないかって程開いてるのに、瞳はまばたきする事を忘れてしまうから困ったもんだ。次に…、喉を鳴らす。ほんの数量の唾なのに、やたら大げさに喉を上下させて飲み込んで。予想外に出会ってしまった瞬間に干からびてしまった声帯は、勿論そんなものじゃ潤わない。最後は、現実逃避。これは夢だ。目の前で起こっている一部始終、全てが夢なのだ。そう、これは悪い夢とかいた悪夢。フクが可愛い女の子からラブレターを貰ってるとか、その顔がうれしそうとか、女の子も顔が真っ赤とか、全部引っ括めて悪い夢だ。 この世と向こうを行ったり来たりする思考が此方へ戻ってくる手助けをしたのは、私がマネージャーを務めるバスケ部の面々だ。ぼーっと呆ける私を「バカを拗らせたと思ったからアル」という何とも言えない理由で劉が叩いたことをきっかけに舞い戻ってきたわけで。ああ…、おはよう悪夢。さようならマイ・ドリーム。 「先輩はボーっとして、何見てたんですか?」 「ボーっとって…、アレだよ」 「アレって…」 「ん〜?あ、福ちんじゃ〜ん」 「ぬあああ!!!福井め!何故アイツなんじゃああああ!」 「うるさいアルよ、モミアゴリラ」 わいわいと五月蝿い劉とオカを無視し、後輩たちとフクの様子を眺める。満更でもないような顔をする彼がこんなにも憎たらしいだなんて。己の嫉妬感情に自己嫌悪してしまいそうだ。そんな中、思案顔した後輩・氷室くんが「また貰ってたんですね」と気になる一言を漏らす。 「ま、またって…?」 「いや、そういえば先週も貰ってたなあと思って…」 「あー…、たしかこの前の練習試合の時も貰ってたかもー」 予想外すぎる報告に呆気にとられすぎて、口がぽかーんと開く。開いた口が塞がらない、ってのはこんな時に使うことばだったのか。脳天を突くような衝撃続きだというのに、落ち着きを取り戻したらしいオカがさらなる爆弾を落としてきて、もう私のライフは底をついた。ぎっと結んだ口内はざらついている。きっと砂を噛み砕いたら、こんな味がするのだろうな。 「いうても、福井はようモテるからなあ」 一体誰だ。毎週水曜日は部員でランチしようと言い出したのは。…まあ、犯人は私なのだが。 今週の水曜日、今日も例にも漏れず、バスケ部レギュラーで仲良くランチを貪ることとなってしまった。今朝の出来事がもやもやと胸に残ったまま迎えたこの時間は憂鬱以外の何物でもない。何があったのか知っているこちらに対して、フク本人は知られていないと思ってるから困ったもんだ。用意したお弁当を開きながら彼を盗み見るも、いたって普段通り。些細なことでいいから、なにかきっかけがあれば聞きやすいというのに。 「ねー、福ちん」 「福ちんいうな、先輩って呼べ…で、なんだよ」 「朝さー、また手紙貰ってたっしょー?」 「そそそそそ、そうじゃ!お前、まぁた1人でモテよって!」 浮かない顔をしていたから内心がバレたのかそうでないのかはこの際どうでもいい。ぴっと一瞬だけ敦くんと目が合ったかと思えば、あの質問だ。ナイス!だなんて喜ぶ反面、何言ってくれてんの!なんて焦る自分がいて、ちょっと笑えてくる。なんだかんだで一番見なかったことにしたいのは私なのだから。 「岡村うっせ!ったく、貰ったよ」 「可愛かった?オーケーした?」 「なんだ、もう彼女持ちアルか…リア充は滅しろ」 「まだ何も言ってねえだろうが!」 どんどん踏み込んでいく話題に背中に冷や汗が伝う。普段ならば、こういった話題に真っ先に飛びつくのが私だというのに、相手がフクというだけで尻込みしてしまう。恋するオトメというやつは、全くもって偉大なもんだ。先程から一言も発さない私を不思議に思った氷室くんが「先輩、具合悪いんですか?」なんて気にかけてくれる。彼のこういう気遣いは本場もんだなあ…なんて場違いなことを考えてみても、彼の口が止まるはずもないわけで。 「まずオーケーしてねえから…とっくに断ったっつーの」 「え!?」 「…んで、お前がでけえ声で反応してくんだよ」 「あ、いや、深い意味は無いです…」 嘘です、あります。内心めちゃくちゃホッとしてます。フクがまだ誰かのものになっていないことに、すごくすごく安心感を覚えてます。ずっとフクの魅力に気付いてるのは私だけだと思っていたから、ライバルがたくさんいるだなんて思いもしなかった。それが蓋をあけてみれば、モテてましたーなんて。驚きを超えた何かがあるというか。胸を撫で下ろしたような溜息をそっと吐けば、氷室くんが小声で「良かったですね」だなんて。…これは、バレてるパターンです、な。 「つーか今は部活の方が大事だから、恋愛のどうのこうのって言ってらんねえよ」 「どの口がいうアルか…この前だってマネ」 「あーーー!!!劉、テメェ黙れ」 フクが言ったことの衝撃で、劉がなにを言ったかなんて上手く聞き取れやしない。そうだ、今は部活が大事な時期。個人個人の恋愛にうつつを抜かしてるヒマなんて無いのだ。私もフクもオカも、次が最後の大舞台。気合をいれなきゃならない時に、フクがラブレター貰ったぐらいで不安定になってちゃ陽泉のマネージャーなって務まらない。もっと、ピシっと気を引き締めなければ。 「なあ!」 「ひぇ?!」 「…お前、さっきの聞いてたか?」 「えっ、さ、さっきの?部活が大事?」 「いや、そこじゃねえけど…まあいいわ」 そんな事を考えているときに、突然フクから話しかけられてしまった。勿論心臓は16ビートを刻むように早鐘を打つわけで。顔に熱が集まっていないことを祈りながら会話するも、最後のニッとした笑顔でそれは叶わぬものとなってしまうわけで。 ああ、神様、前言撤回させてください。恋愛にうつつを抜かしてるヒマがないのは事実ですが、彼は尽く私の心を奪い去っていくから、そうも言ってられないのです。8割は部活に力を注ぐので、残りの2割は彼に注ぐことをどうかお許し下さい。 淡い期待よ = = = = = = = = = Dear ito(kurumamichi) HappyBirthday to you!! I love you forever... Love,lino(kisaku) = = = = = = = = = thanks:金星/120913 |