妖しい月光は二人分の薄い影を揺らめかせる。人工的な灯りの少ない夜道に、中途半端な私たちは不釣合いだ。

何時の事だっただろうか。数歩先を歩く彼に暗がりが嫌いだと言った私の声は届かなかったのだろうか。もしかしたら最初から『私』という存在は彼に認められていなくて、その声は認識されていなかったのかもしれない。彼にとっての『私』という人間の存在価値はとても薄っぺらいものでしかないのかもしれない。それくらい、私と彼を繋ぐものは細く曖昧なのだ。

それはまるで切れかけの電球のような関係、だと思う。他人から見れば、とても目障りなものだ。ちかちかと暗くなっては明るくなっての繰り返し、鬱陶しい以外の何物でもない。見ているだけで吐き気をもよおしてしまいそうな。そんな、すぐにでも取り替えてしまいたい電球は、透明な南京錠をかけた透明な箱のなかに在る。何処かにある鍵で、どうにかして開けれたのなら簡単なのに。少しの衝撃で壊れてしまいそうな箱を壊せないのは私。だって箱が壊れたら電球も壊れちゃうでしょ。それは私と彼の終わりを意味する行為。自ら破綻を望むだなんて、浅ましいでしょう?

私達が元通りになる術は、全て征十郎が握っているのだ。鍵の在り処も、箱の開け方も、全部ぜんぶ。彼の手の平という絨毯の上で独りワルツを踊る哀しい傀儡。足掻けば足掻くほど糸は絡み合って、己の首を締め上げる。ああ、苦しいな、寂しいな。操り糸を切ってしまえたら楽なのはしっているのに、振り千切ることもしないの。不思議でしょう?彼との契りはいくらでも交わせるのに、千切ることは出来ないの。

今宵も傀儡師は楽しげに声を上げる。「名前、今夜は何処に行こうか」やがて見えてくるのは人工的な光、ひかり、ヒカリ。目が痛いほどのネオンはこれから始まる不毛なウインナー・ワルツを歓迎しているようにも見えた。「綺麗なお城がいいわ」できるだけ貴方と私の幸せな夢が描けるような。今は傀儡師とマリオネットでも、お城の中では王子様とお姫様になるの。王子はハリボテの笑顔を浮かべて「綺麗だ」って姫に言うのよ。そしたら姫は「貴方のためよ」とキスをする。そうして二人は偽物の愛の海に溺れるの。息もできない程、深い深い海の底に堕ちていくのよ。気づくと二人は浜辺に打ち上げられてるの。心の奥底まで冷えるから、一糸纏わぬ姫と王子は互いの肌で暖めあうの。そしてまた体の奥深くまで融け合って、交わりあって。遺伝子単位で、文字通り『ヒトツ』になるのよ。

でもね、切れかけの電球は綺羅びやかな灯りの中でも目立ってしまうの。どうしてだろうね。今の私と彼の距離は一ミリもないというのに。たくさん、数えきれないほどに契ったのにね。ほらまた、彼のその手でちぎられる。
I knew last.

(120905)
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