こぽこぽこぽ。どこからかコーヒーメーカーの音がする。あ、この香りは…、この前私が買ってきた某チョコレートショップのコーヒーだ。甘いあまいショコラの香りもだが、その風味もショコラを思わせ、あまり苦味がない。普段ならブラックで飲めないこの私が、すんなり飲めてしまうくらいには美味しかった。…あれ、でも誰がコーヒーなんて淹れてくれてるんだろうか。眠気が容赦なく襲ってくるような微睡んだ思考の中で必死に答えを探す。

「名前」

白んだ視界の中に現れた赤。真っ黒なコーヒーにミルクを落としたような波紋を描いて私の耳に響く声の正体だ。ああ、だから私は素っ裸なのか。妙な恥ずかしさに掛け布団で隠れきっていなかった身体を隠す。そんな私の心まで全てお見通しと言わんばかりの笑みを彼は浮かべる。

「征十郎くん…、おはよう」
「もう昼だけどな…まあ、おはよう」

私の前髪を撫でる指先からは香ばしい中にも甘さのあるような、そんな匂いがする。まるで犬のようにくんくんと鼻をひくつかせれば、そこをぐっと摘まれる。ふがっなんて情けない音が口から漏れる。

「やーべーでーおー」
「なんて言ってるのかよくわからないな」
「ぼー、ぐづじー!」

じたばたと手を動かし、彼の手を捉えようとする。予想外にもあっという間に掴むことのできた為、勢い良く引っ張ってしまった。白い天井と赤い髪の毛とオッドアイのコントラストが綺麗だな、なんて思っていると、その赤は容赦なく近づいてくる。掴んでいたはずの腕はいつの間にか掴まれる側になってしまっていた。

「朝から大胆だな」
「故意にでは御座いません」
「僕は一向に構わないよ」
「私は構うから!昨日だって」

散々ヤッたじゃない。そう続けたかった言葉は彼の口内へと消えて行く。もっといえば、彼に浴びせようと思った罵声は舌ごと絡め取られていく。このままだとそのまま流されていってしまうな。分かっているのに必要以上の抵抗を見せないのは惚れた弱みというやつなんだろうか。ぺろりと唇を舐められても、いつの間にか掛け布団を剥がされていても、彼には何かしらの毒でもあるのじゃないのかというくらいに抵抗する力がでない。当人は昨夜自分が散らした痕にご満悦ときた。赤司征十郎という人間の半分は支配欲からできているんじゃなかろうか。

「綺麗だな」
「ヘンタイ」
「心外だな…仮にも恋人同士だというのに」
「だからこそ、だよ」

さあもう一度キスをして。貴方のためなら色気違いにだってなれるのよ。そっと彼の首元に腕を回して口付けを強請る。呆れたような彼の笑みが行為の合図。部屋に溢れかえる甘いコーヒーの香りは二人の香りで薄まっていくのだ。

こよみ様リクエスト/120902
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