花に喩えるならば刺々しい…黒い薔薇だろうか。彼に近付きたい、その一心で大した興味もないバスケ部に入部した。彼とお話できない時間は酷くつまらなかった。ただただ退屈で、事務的な作業をロボットのように熟すのみ。視界の端で捉えた、欠伸を噛み殺す黒髪にうっとりするのが唯一の癒しだった。見つめれば見つめるほど吸い込まれるような紫黒。綺麗に歪められる笑顔の裏側をすべて嚥下して私のものにしてしまいたい。そうして彼に首根っこ摘まれるのは私だけでいい。

何度憎まれても、私は貴方に愛を伝えたい。

「花宮くん、好きよ」
「うるせぇ」
「何度も言ってるけど、応えて欲しいとは言わないの。私の気持ちを知っててくれたら」
「はっ、よく言うわ」

くるりと振り返る紫黒から香るブルガリブラック。彼の見せるミステリアスな顔にも似合うムスクは私の部屋の香りとよく似ている。彼の浮かべた表情は少しだけ困った笑顔。そういう表情も出来るなんて、ますます私だけのものにしたい。

「僕も名字さんのことが好きだよ。でも、それだけじゃダメなんだ」
「…」
「で、満足か、ブス。」

困惑を見せていた笑顔は一変して、嘲笑ったような表情になる。それはそれは愉快そうに歪む彼の全てに背中からゾワッとする感覚に襲われる。別にイヤじゃない、快楽にも似たざわめき。

「足りないよ」
「へぇ」
「だって私だけの花宮くんにしたいもの」
「そろそろさ、黙ってくれる?」

がっつりと手で覆われる己の顔。鼻から口まで覆う手の大きさに、またうっとりとしてしまった。花宮真、彼を象る全てが愛おしくて狂ってしまいそう。親指と人差指の間で抑えられてしまった鼻腔では上手く呼吸が出来ない。彼から与えられる苦しさも快感に変わってしまいそうだ。少しだけ開いた口腔から舌を突き出し、べろっと彼の手の内を舐め上げる。人肌特有の柔い感覚と彼の味。甘美なその風味が全身を駆け巡る。瞬間、ふっと酸素を取り込めるようになる体。ああ残念、焦った彼が離してしまったよ。

「何やってんだよ、テメエ」
「花宮くんが好きなんだもん」
「バッカじゃねえの?お前みたいなのが、他人のために死ねるとかいう偽善者なんだろうな」
「そうね、花宮くんのためになら死ねるわ」

にっこりと笑って舌なめずりをする。一瞬だけ怖気づいたような顔をした彼も、今は余裕を取り戻してしまった。悔しい。どんな表情も私だけのものにしてしまいたいのに。馬鹿にしたような笑みを浮かべている彼もこんなにも愛しい。弧を描く口元に私の黒薔薇を押し付けてしまいたい。

「じゃあ一緒に死ぬか?」
「死ぬ前も死んでからも、貴方となら天国に逝けるわ」

ゆるやかにカーブを描いていた瞳が色のないものに変わる。すべてのものが無になった視線に背中から下半身から、全ての性感帯に愛撫をされるような感覚がした。
に喰われた
「調子のってんじゃねぇよ、さっさと死ね、ブス」


水瀬様リクエスト/120831
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