「名前ってば、首元も刺されてるじゃん」腕の虫刺されに薬を塗っているときのこと。予想外にも髪の毛が纏まらなかったため、久しぶりにポニーテールにしてた首元をみた友人の思わぬ一言。思わず指差された箇所を手で覆い「あ、ほ、ほんとだ…」と乾いた笑いを繰り返す。目の前の彼女もバカだなあなんて言って笑ってくれているところを見て安堵の溜息を漏らした。居心地の悪さに教室の隅に目を逸らせば、猛禽類の眼を持つ彼と視線がかち合う。虫刺されを作った犯人は顔の端を引き上げたような笑みを浮かべた後に他のクラスメイトに声をかけていた。 ○◎○ 彼、高尾和成の愛は狂ったように重い。制服の隙間から見えた無数の痕が昨日の行為を生々しく語る。お前は俺の所有物だと耳にたこが出来るほど囁かれたのは記憶に新しいもので。『高尾和成は独占欲と支配欲で出来ているんなじゃないか』なんて極論に達するほどに溺愛されている、と思う。それにしても、まさか髪の毛でしか隠れないような場所にまでつけているなんて、油断していた。彼から逃げ出したいと思うことは多々あった。逃げようと思えば逃げ切れる場面だって沢山遭遇した。だけどその度に彼の眼が訴えてくるのだ。何処にいても逃さない、と。 ○◎○ 日誌の提出を忘れ、部活動に励んでしまっていた。部活動終了時刻間際に校内放送で名前を呼ばれてしまった。自分の所為とはいえ、これは恥ずかしい。すぐに教室へ飛び戻り、蛇が這ったような字で日誌を仕上げる。 … 「失礼しましたー」過ごしやすい空調に設定された職員室から「間延びした挨拶をするな!」という担任の怒号が聞こえるが、もう無視だ、無視。薄暗い廊下に一人分だけの足音はよく響く。いつもより遅くなってしまった。そういえば和成から一緒に帰りたいという旨のメールが着ていたような…。そこまで思考を巡らせたところで背筋が凍る感覚がした。ヤバい、そう思った時には昇降口へ向かう足は駆け出す。自分のクラスの下駄箱に寄りかかるように立った人影。不機嫌なオーラを隠そうともしないその姿は『クラスの人気者・高尾和成』と同一人物とは思い難い。息を整えるのもそこそこに「ごめんなさい」と彼の袖口を引っ張る。「遅ぇんだけど…何してたわけ?」「えっと、その、にっしを…」「逢引?俺って存在がいながら」「いや、だから日誌を」金縛りにあってしまうような視線が痛い。袖口を持っていたはずの私の手は、いつの間にか彼に絡め取られていた。「あーあ、せっかくわかるように付けたのになあ」友人の指摘後に解いた髪の毛で隠れた痕に彼の指先が這う。ゾクッとする感覚によって眉間に力が籠った。「和成」「名前はそんなに俺から逃げたいの?」「ねえ」「それはダーメッ。俺の『眼』からは逃げらんないって、知ってんじゃん?」作り上げられていく表情は笑顔なのに、瞳にはその感情が見えてこない。ふふっと声を漏らしながら「それに」と言葉を続けながら、また新たな場所に痕をつけようとする彼。ねっとりとした感覚から逃れたいのに、振りほどけない。「名前が俺を手放せなくなってんのも、俺はちゃーんと知ってっから」ちりっとした痛みが胸元に走る。外側からも内側からも彼に侵食されてしまっているんだ。足を踏み入れた場所は間違いなく、這い上がることの出来ない底無し沼。
によく似た不快感

りんか様リクエスト/120828
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