遮光カーテンから朝焼けが漏れる感覚に目を覚ます。隣にはリズムを取りながら呼吸する存在が居て、胸のあたりがむず痒い。お世辞にもオシャレだとは言いがたいTシャツを着ているくせに様になっているのは、彼が今をときめくマルチタレントだからだろうか。枕がわりに差し出されていた腕には程よい筋肉がついており、以前はバスケットボールプレイヤーとしても名を馳せていたことも頷ける。男性にしては綺麗な肌も、伏せられた長い睫毛も全て、すべて狂おしいぐらいに愛おしい。

学業の傍ら、読者モデルを始めたばかりの私に声を掛けてきたのは紛れも無い、隣で未だ眠りこける彼だ。その時にはすでに大学を卒業していて、互いの年の差は片手で事足りないほど離れていた。それでも彼が私がいいと言ってくれた。彼がいいと心の底から思った。

「りょーたさん」
「…んっ」
「大好きです、ずっと一緒にいてくださいね」

いつもは言えない言葉も彼の意識が深く沈んでいる時間ならば言える。好きです、大好きです。右隣りからみる彼は体に傷ひとつ付いていない。差し込んだ光で輝く髪の毛がとても神秘的で目を奪われてしまうもうすぐ撮影の時間だというのにぼーっと見とれてしまうほどに綺麗だが、名残惜しくなる前ベッドを後にする。

シャワーを浴びながら考えることは、彼がいなくなってしまった時のこと。ずっと一緒の『ずっと』に未来永劫の意味は含まれているのだろうか。今となっては彼なしでは生きていけなくなってしまった気がするのに。その、いつ来るかもわからない『いつか』に酷く怯えてしまう。出来る事ならこのまま時間がループしてしまえば、いっそのこと救われる。

シャツとジーンズを身に纏い、もう一度だけ彼の元へ歩み寄る。先程と変わらない規則正しい寝息が彼の存在を証明してくれているようだ。あと数分後には部屋を出なければならない。腰を曲げながらベッドに倒れ込み彼の唇へ近づく。そのやわらかな場所に触れそうになった時、いつもはシルバーで塞がれているピアスホールと対面してしまった。聞けばこの穴は中学時代に開けたものだという。かれこれ10年以上の付き合いがある場所は何人のオンナのモノをハメてきたのだろう。何人のオンナを眺めてきたのだろう。私は一体何人目なんだろう。聞こえないはずの女性の笑い声が聞こえた気がして、急いで自分の耳にしていたひとつを外して彼の穴に刺す。靄のかかった視界では上手いとこ通せなかったのか、突然の痛みに驚愕したような声をあげて彼が目を覚ます。

「ったー…、何してんの?…あれ、ピアス?」

痛みの原因を探るために耳朶を触った彼が異変に気づく。レディースジュエリーだが、小ぶりなそれは彼の耳朶にもよく映える。ある程度指で弄び、私の両耳を確認した後に寝ぼけ眼で「これもらってもいいの?」と一言。

「うん、いいですよ」
「でも名前のお気に入りじゃん」
「いいの、お揃いってことで、どうでしょう」

にっこりと笑ってみせれば、彼も納得したような笑みを浮かべてお礼を述べる。ゆっくりと流れたその時間がずっと続いてくれたら、繰り返し訪れてくれたらいいのに。

「仕事は?」
「もう行かなきゃです」
「じゃあ、いってらっしゃい」
「はい、行ってきます」

もう一度、改めて彼の唇に近づく。というよりは近づいてきたという方が正しいのか。密かに熱を帯びていく箇所が多すぎる。こんなにも全身で彼を欲している。もっと触れていたいのに時間はそれを許してはくれない。愛惜する感覚に苛まれながら、そっと唇を離し手を振る。扉を開ければ1人の学生モデルとして振舞わなければならない。時計はもうすぐ集合時間を指そうとしている。遅刻は確定だな、なんて。最後にもう一度だけ彼の方を振り返れば、優しい笑顔を此方に向けて私を送り出そうとしている。ああ、穴もモノも全て消毒できてなかったのが酷く悔やまれるな。
ピアス

未菜様リクエスト/120827
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