ずっずっ、と引きずったような足音を立て、月の灯に照らされた道を歩く。お酒が入ってしまった思考回路はいつもよりふわふわとしていて、ついでに言うと隣の彼もふわふわと見える。成人式以来の同窓会だったためか、皆がみな羽目を外した状況は一言で表すなら『混沌』だ。無礼講だーなんて叫んでビールを流し込んだクラスメイトはあっという間に寝入ってしまっていた。  そんな事は割とどうでもいいはなしで。現在、帰る方向が一緒だったために高校時代の想い人と肩を並べて歩いている。頭一つ分以上高い彼の視線は進行方向へ怠そうに向けられている。彼に恋していたのが数年前の話だとはいえ、意識してしまえば当時の感覚で体は脈を大きく打ち始める。アルコールで顔が赤くなる体質で良かった。今この瞬間、この顔を見られてしまっても素敵な言い訳があるんだから。終始無言なこの帰路も、彼が刻む足音がBGMとなって心地よいものに思えた。そういえば、恋するってこんな感覚だったかもしれない。大人に近づくにつれて、忘れてしまっていた。  かつての通学路に差し掛かった頃、隣の彼が「おー、学校に向かってるみてーだわ」とこれまた怠そうに呟いた。「そうだね」と相槌を打てば、「懐かしいな」って微笑んで。ああ、この緩やかに曲線を描いた表情が好きだったな。後輩からは『怖い先輩』なんて言われちゃうくらい、いっつも眉間に皺を寄せていたのに、偶に破顔してみせるのだ。ギャップ萌えに近い感覚だろうか。それとも恋する乙女だったからなのか。楽しげに「ここの近くの肉屋でチームメイトとコロッケをよく買った」とか「あの角のスポーツ店の品揃えが良かった」だなんて話す彼を前にすれば、考えなくとも分かってしまうことなのだけれど。  後少しで分かれ道にというタイミングで隣から「あ」と何かを思い出したような声が聞こえた。「どうしたの?」と聞き返せば、「報告すんの忘れてたわ」だと。微かに感じた胸騒ぎを無視して、言葉の続きを促す。「もうすぐ結婚すんだ、俺」「へ…ぇ…、おめでとう、よかったじゃん」からからの喉から絞り出す祝いの言葉に心などこもっているわけがない。照れながら「ありがと」と言われてしまったら、蘇りそうなこの想いに蓋を閉めるしか無いじゃない。もう二度と間違えて開けてしまわないように、頑丈な鍵も付けなければ。「早かったね」「まー、フィーリングっつーか…あ、披露宴には呼ぶから来いよな?」「…来てもいいんだ」「ったりめーだろ?そのかわり、お前の時は俺ら夫婦で呼べよ?」「…任せてよ」神様、私は上手く笑えていますか?  気をつけて帰れよと手を振る貴方は、もう二度と私を玄関先まで送ってくれない存在になってしまいました。いつまでもいつまでも、じわりと未練を残していたのは私だけだった、それだけのことなのに、無性に泣きたくなった。長かった片想いは終止符を打たなければ。『俺さ、アイツと出会って愛ってのが何かわかったんだよ』そう微笑んだ時に、その表情が別の誰かのものになったんだって確信して、息が詰まってしまったよ。出来る事なら、貴方から愛が分かっただなんて聞きたくなかった。
いつの間にかひとりだった

(120827)
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