「早くはやく!」急ぎ足の彼女が掴んだ左手が熱を持った午前0時。もうすぐ数年に一度の流星群が秋田の上空に訪れるという。今朝から浮き足立っていた彼女を他の部員たちは呆れ返った目で見ていた。もちろん彼女の必死な誘いに首を縦に振るものはいない。その矛先が己に向いたとき、アメリカ仕込みのレディーファーストな考えによってオーケーを出してしまった。彼女が女性だから真夜中に1人で見に行くのが心配なだけ。ただそれだけのはずだった。高揚感で染められた薄桃色の頬に触れてみたい。手首を掴んだ白い手に指を絡ませたい。どんどんと溢れてくる邪な思考に思わず笑いがこみ上げそうになる。「ついたー!」彼女の忙しい足が止まったところが今日のお目当ての場所らしい。確かに見晴らしがよく、ここならば星がよく見える。わくわくが隠し切れない彼女の黒々とした瞳をどうか僕に向けてください、なんて。「氷室くん、知ってた?流星を見るときは寝転がってみるといいんだよー」「そうなんですか?」「うん、名前さん的にはね」綺麗に縁取られた笑顔の持ち主が横になった。自分の隣をぽすぽすと叩き、倣って転がれと支持される。仮にも先輩だ。そっと隣に失礼し、星空を見上げる視界の端で彼女を捉える。「今日はごめんね」「…なにがですか?」「氷室くんは優しいからさ、…好きでもない女の我儘に付きあわせちゃってごめんねってこと!」そんなことはない。まず貴女は肝心なところを勘違いしている。彼女が告げた言葉を否定したくて口を開こうとした時、彼女の驚きを含んだ声がする。「氷室くん、ほら、流星!」興奮気味な彼女がそっと腕を揺らす。主に彼女を捉えていた視線を夜空に移す。そこには彼女の言っていたとおり、たくさんの星が流れていた。キラキラと漆黒のベールを駆け抜ける無数の光に目が眩みそうだ。こんなにも眩しい光は、僕に似合わない。「お願いごとしないと!」子供のような声を上げて、彼女は星空に願いを唱える。何をどう願ったのかなんて知らないし、知りたくもない。もしも、本当にこの宇宙の星屑たちが最後の力を振り絞って願いを叶えてくれるのならば、僕が願うのは彼女の未来に己が居てくれることだ。そんなもの、こんなにも溢れかえった流星に願っても仕方ないのだけれど。

(120823)
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