人生においての高校生活なんて呆気ないものだと彼が笑う。確かに、この長いながい人生において、今私が生きている青春時代というのは序盤であり、ほんの一握りの期間にすぎない。またその短い時間で、さらにあっという間の夏がまた過ぎようとしている。今年はその最後の夏だ。ガラスの向こう側にある彼の目から何を考えているのか掴みとるには、あまりにも得れる情報が少ない。目は口程に物を言うなんて、彼の前ではなんの役にも立ちゃしない。部員たちを見つめる背中の横に並んで、同じようにコート内へ視線を送る。「ねえ、翔一。何考えてるん?」「さあ、なんやろな」「今年で最後の夏やなあ…あっちゅー間の3年間やったわ」「まだ今年は終わってへんで」呆れたような笑みを浮かべる彼に「知っとるけど」と口を尖らせてみるも無反応。あーあー、さつきちゃんはいませんか。私の癒しちゃんは。キョロキョロと周りを見回すも、癒しのさつきちゃんはおろか、我が校が必死になって獲得した青峰くんの姿もない。体育館に響き渡るのは他の選手が奏でるスキーム音とドリブル音たちだ。「なあ、青峰くんは?」「どこやろな」「私のさつきちゃんもおれへん」「お前のちゃうやろ…ま、桃井は偵察が主な仕事やさかい」「私かてマネージャーや」「ほぼ俺専属やん」なんか間違うとるか?と此方を向いて、恥ずかしげもなく微笑む瞳はやはり何の情報もない。仮にも彼女なのに、きっちり仮面をかぶられてしまったらどうしようもないな。間違ってへんよ、と返して手に持っていたボードにペンを滑らせる。「今年はほんまに行けると思ってん」「どこに」「テッペン」「…せやな」汗を流す彼らの気合は今年も十分、というよりは去年以上だ。私たちはまだ頂点からの景色を知らない。それを今年は見れるかもしれないという。最後の、この夏に。ふっと漏れた笑みは諦めでも自嘲でもない、余裕から出たものだと確信してならない。ああ、もうすぐだ。もうすぐ始まる。私と彼、翔一の最後の夏が。



「ラスト・サマー・ライラック」提出分
水瀬ちゃん、素敵な企画に参加させてもらえて嬉しいです!本当にありがとう。
thanks:リラン
(120819)
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