一際大きな背中はどれだけ大きな生徒にまじっていても、頭ひとつ飛び出ている。サラサラと揺れる髪の毛は今日はハーフアップにまとめられている。恐らく生徒にやられたのだろう。フリルが施されたシュシュがやたらと可愛らしい。その鮮やかな紫の後ろを付けてタイミングよく抱き着けば、その背中の持ち主のこれまた大きな手で頭を叩かれる。痛い、いたい。愛とはこんなにも痛いのですね。

「また名字ー?」
「へっへっへ、ちゃお、敦せんせ」
「暑いんだけ…、アンタ、お菓子作ってきた?」

くんくんと鼻をならして私の首元を嗅ごうとする先生は、本当に教師として自覚はあるのだろうか。いや、今の彼は目の前の餌に釣られた可愛いペット…という方が近い。本能的に必死に香りの出処を探そうとする仕草はとても可愛い。いわば大型犬のようだ。可愛い、可愛いけども、傍から見たらコレはあまりよろしくないんじゃなかろうか。仮にも教師と生徒という間柄。いくら私から抱きついたとはいえ、これほどまでにあちらからスキンシップをされてしまえば高鳴る心臓が隠せない。

「うーん、マドレーヌ?」

髪をすっと掬われて、匂いを嗅がれる。ああ正解だなと思う反面、この人は何をしているんだろうとも思う。それにしても近い、近すぎる。鼻と鼻がくっつきそうな程近づけられた顔は相変わらず整っている。遠くで女生徒の悲鳴のような声が聞こえる。すぐさま離すために、鞄に潜ませていたブツを取り出し彼の前に取り出す。勿論、此方を見つめていた視線は香りがする方へと釣られて動く。それが寂しいような、助かったような、そんな不思議な感覚に陥った。

「どうぞ」
「お、あったり〜」
「今日はうまくできましたので、おすそ分けです」

押し付けるように差し出すと、へらっと細められる瞳にこれまた心臓が高鳴る。目の前で全部平らげられていくマドレーヌに自分を重ねる。私の心もいつの間にか彼に全て平らげられてしまったのかもしれない。最後のひと欠片までも逃さまいとペロリ舐めとる仕草が艶かしい。再三繰り返すが、彼は本当に教師としての自覚はあるのだろうか。やはり彼にはそんなもの存在しないのかもしれない。

純粋にされている
「ごちそうさま」

(120818)
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