「うちは自由な校風だからね。生徒たちをのびのびと成長させたいと思っているんだ」
「…素敵ですね」
「そう言ってもらえるとありがたいよ」

憧れの先生がいる。それは以前、教育実習でとてもお世話になった人。それはとても綺麗な人。それはとても素敵な先生。一挙一動がとても靭やかで、艶やかで。ほうっと感嘆の溜息が溢れてしまい「どうかしたのか?」と苦笑された記憶はいまだ色鮮やかだ。
そんな憧れの先生がいる学校に無事勤めることが決まり、今こうして校内を改めて案内してもらっている。一歩前を歩く人影は今日も今日とて麗しい。日本人らしい奥ゆかしさも、生徒を咎める時の厳しさも、全てに焦がれてしまっている。

「名字先生は…、先生?」
「えっ、あ、はい!」
「僕の話、ちゃんと聞いてましたか?」
「あ、えっと…すみません…」
「今日はいいですけど、明日からはよろしくお願いしますね」

くつくつと声を押し殺して笑う先生に、また見とれてしまう。ああ、綺麗だな。

先生、先生。自由な校風であれば、私が先生に憧れ、恋焦がれることも許されるんでしょうか。いつか、いつの日か貴方に届くのだろうか。思わず伸ばしてしまった指先は、彼の服を少しだけ掠めてしまう。

「あっ」
「どうかしたのか?」
「いえ、何でもないです」
「名字先生は前に教育実習にきた時も、僕の問いに何でもないと答えましたよね」
「…覚えていらしたんですね」
「君は、必ずここに来ると確信していたからね」

向かい合ったオッドアイに捕らわれる。夕暮れ時が彼の赤い髪を更に紅く染め上げる。やっぱり先生は、綺麗です。出てきそうになった言葉と共に唾を喉を鳴らしながら飲み込む。けれどもきっと、彼には届かない。そんな感覚に何故だか無性に泣きたくなった。

「赤司先生は狡いです」
「そういう性分だからな」

綺麗な笑みを作った顔も、やっぱり貴方は綺麗です。



(120816)
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