僕には君の気持ちが分からない。それは汲み上げても汲み上げても溢れ落つ水のようで。子猫が水を掴もうとするそれにも似たような、そんな感情。此方を向いた瞳に映っているのは確かに僕なのに、本当は何も映されてなどいないのだ。「名前さん」「なあに」「俺のこと、好き?」感情の読めない、むしろそれすら感じられない抑揚のない声と瞳。えー、なんて。くすくすと笑う彼女は可愛らしく、とても年上の女性には思えない。ああ、僕の心はこんなにも貴女に支配されてしまっているのに、世界はこんなにも不平等なのか。「和成くんってば、今更そういうこと聞く?」「あ、はぐらかしちゃう?」「さあ、どうでしょう」くすくす、くすくす。僕の右手を絡めとり、楽しげに触って遊んでいる。その横顔は同世代のものと似ているのに、何処か違って。「…んと、狡い人」「えー?」「そういうとこも、好きですよ」僕を映そうとしない瞳に僕を映して。自己満足だと言われたって構わない。そんなエゴだらけの感情を込めて、彼女の首筋に手を回す。あと少しで唇が触れるという瞬間に感じた人の手の感触。「駄目だよ、和成くん」「…ケチ」「まだ日が高いよ、お天道さまが見てる」「最後までしませんってば」「うそつき」「嘘じゃない、って」ぺろり。差し出された片手に舌を這わせればピクッと反応する彼女。名前さんの言うとおり、僕は嘘つきです。今、この瞬間に貴女を組み敷いて、そのまま流れてしまいたい。そうして貴女という存在に『高尾和成』を刻み込んでしまいたい。だから早く、言葉だけでいいから愛を伝えてくれないかな。

よ、


(120813)
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テーマ「人外ファンタジー」
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