静かな空間に憧れの先生と二人きり。気にしないフリした私が本のページを捲る音が響く。追いかけるように先生のペンが採点をする音もする。こんなに静かだったら、私の心音までも聞こえてしまうんじゃないんだろうか。やたらと高鳴る胸の音が体中に響いて五月蝿い。

「先生、採点はあとどれ位かかりますか?」

長いながい採点作業の途中で先生がふっと息をついた瞬間に問いかける。すると、何を考えているのかよくわからないような瞳が此方を捉えて「あと少しですよ」と笑う。

黒子先生と出会ったのは嫌々ながら押し付けれた、この図書委員になったことがきっかけで。学年も違うし、先生の授業を選択している訳でもない。他人よりも読書が好きだという理由で押し付けられた図書委員。その会議に向かった際に、彼の姿を見て一目惚れ。それ以降は何らかの理由をつけてサボろうとしていた図書委員の仕事にもご覧の有様。一度も休むこと無く訪れている。

「じゃあ読書は後少しでおしまいですね」
「…どうしてですか?」
「今読んでる本は館外持出厳禁なので」
「なるほど」

納得したような返事の後、片手に持っていた赤ペンを一度だけくるりと回すと再度採点作業にとりかかる。ああ、会話終了しちゃった。もうちょっと踏み込んだ話題を振ったら良かったかな。例えばこれは館外持出厳禁だけど持ってっちゃてもいいか、とか。先生もこういう作品は好きか、とか。すっかり仕事モードに入ってしまった彼をちらりと見る。その真剣な眼差しで私を見てくれる日は訪れるんだろうか。もう暫くは先生と生徒って肩書きがひっつき回っちゃうけど。後ちょっとしたら、そんな柵からも開放されるよ。だから後少しだけ待ってて。

れる
「好きです、先生」
(120813)
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