夕日が差し込む教室、髪の色と同じ様に色づいた唇に手を伸ばしてハッとする。差し出した手は数秒だけ空中を彷徨った後、彼女の肩をそっと揺する。「起きて、さつき」微温い振動に目をこすりながら彼女は目覚める。冴え出した視界で私を捉えると、大きな瞳を更に大きくして「あー!!!ごめん、寝ちゃってた」と謝罪。懇願するような彼女を見ても許しを出さない人間が存在するのならば、ぜひとも私の前に連れてきて欲しいと思う。「いいよ。で、相談って?」彼女が座る席の前に陣取る。椅子を引いた時に鳴る、薄気味悪い音が鼓膜にやたらと響き渡る。相談内容に察しがつかない訳ではない。何時だって一番に彼女を見てきたのだ。今もわかりやすいくらいに頬を染めているではないか。「えっとね、私、告白しようと思うの」ほれみろ。可愛い可愛いさつきの口から零れた言葉に一瞬フリーズするも、平然を装った音色で「頑張らなきゃじゃん」と返す。頑張らなくていいよ、やめなよ、私にしなよ。天邪鬼な性格で良かったと心底思うよ。「でもさ、本気で好きな人とはなかなか結ばれないんだよ?」眉を寄せた彼女が告げる。そうだね、これだけ貴女を好きなのに私と貴女は結ばれないんだ。本当にそう思うよ。そんな思いも込めながら、首を縦に振る。ああ、でもこれでは彼女が更に怖気づいてしまう。「だよね…どんなに好きだって思ってたって叶わいない事だってあるよね」ほら。見るからに肩を落としたさつきに小さく溜息を吐く。落ち込みたいのは私だよ。どんなに貴女を好きでいたって、これから先ずっと叶いやしないんだから。だけどね「だからって諦めるは良くないよ、さつき。私だって諦めないで恋してるんだから。ね?」優しく笑いながら告げれば、目の前の彼女は納得したように笑う。彼女の笑顔の元は私なのに、私じゃないんだから悔しいね。「せっかくだしさ、私で練習しちゃいなよ」「え?」「私を彼だと思って、ほら、告白!」「でも…」「同性同士なんだからさ、恥ずかしがる事ないよ」少しだけ躊躇う仕草を見せつつも、真剣な眼差しで「好き」だと告げる。嘘だって、練習だって分かってるのに鼓動が大きく脈打つのがわかった。このまま私とデートもしようよ。キスだって、ハグだって、なんだって彼の代わりになってあげるよ。私で試していいんだよ。いっその事、そのまま私のことを好きになってよ。浅ましい考えを巡らせながら、さつきの好意の欠片を拾い集める。「ずっと前から好きでした」私だって、ずっとずーっと、さつきが好きだよ。なんでだろう、目頭が熱いよ。どうしてだろう。右から左へと流したくない言葉が聞こえてるはずなのに、小さな部屋に膝を抱える私はずっと耳を塞いでいるんだ。


The mommy said, "Love is bitter."


(120809)
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