一言で言うなれば、まさに青天の霹靂。程度で表すならば、後頭部を鈍器で一撃って感じだろうか。最近調子悪いとは思っていたのだが、こんなところに来る羽目になるとは思わなかった。それ以上に言い渡された言葉にもう、開いた口がふさがらないのだ。肩身の狭い待合室よりも今がはるかに息苦しい。「今度はお父さんと一緒にいらしてくださいね」って、お父さんはただ今シーズン真っ只中ですよー、だ。

リビングで今日渡された物を片手に彼の帰りを待つ。同棲を始めて、早5ヶ月。その間は勿論のことだが、それ以前にもこういう事になるであろう行為は度々行なっていた。が、現実を受け止めるまでの心の準備ができていなかったようだ。ガチャっという扉の開く音と、家に帰ったことを告げる彼の挨拶。心落ち着けるために、とりあえず深呼吸。ヒッヒッフー…って、これもまだ気が早いし、なにより深呼吸じゃなかった。

「おかえり、真太郎」
「ああ…病院はどうだったのだよ」
「えっとね…、じゃじゃーん」

某国民的時代劇のお付きの人宛らの立ち振舞で、それを見せつける。どうだ、この手帳が目に入らぬか。記名されてはいないものの、母と子が描かれた手帳。そう、母子手帳だ。聡い真太郎ならば、これが何を意味するのか分かったのだろう。私の下腹部と手元と顔を彼の視線が行ったり来たりして忙しない。可愛いなあ、なんて思ってる片隅で考えるのは最悪のパターン。堕ろせーなんて言われちゃったら、この場で別れを告げてシングルマザーになる気満々ですからね。真太郎似の子を産んじゃうんですからね。そんな私とは裏腹に、意を決した様な表情をした目の前の彼。さあて、何と言われるのやら。

「最初に言っておくが…別に、子ができたらかという訳ではない」
「ん?」
「タイミングが…掴めなかったのだよ」
「うーん?!ちょっと真太郎、話が読めないんだけど」
「だから、結婚しろと言ってるのだよ!バカなのか、名前は」
「ば、かじゃないけど…ほんとに?堕ろせとか言わないの?」
「冗談でも言うか。というか、お前は返事をしろ」
「する、絶対する。緑間になる!」

最悪のパターンは回避。まあ彼のことだから、そんな事は口が裂けても言わないとは思っていたけど、それでも。あまりの嬉しさと幸せが相乗効果を連れてきて、涙腺も口元もゆるゆるだ。できちゃった婚なんて世間からの目は冷たいかもしれないのだが、だとしても彼が一緒になろうと言ってくれるのだ。夢に描いていた日々が、ほんとうの意味で始まろうとしている。

「あー…、良かった…」
「お前は俺をなんだと思ってるのだよ」
「言わないとは思ってたけど、結婚してくれるなんてさ」
「明日にでもチームには報告する」
「記者会見でおめでた婚ですか?って聞かれちゃうね」
「…面倒だな」
「よっ、人気プロバスケットプレイヤー・緑間!」

減らず口を叩き合っている間にも彼の手は穏やかに私の下腹部を撫でる。包み込むような大きな手と優しい手つきと。小さい頃はプロポーズには大きなダイアモンドの指輪と夜景が綺麗なレストランがペアだと思っていた。大人になってからの現実はかけ離れたものであったのに、胸の暖かさはあの頃の夢以上なんじゃなかろうか。「3ヶ月だってよ」と呟いてみると、父性に溢れた笑顔を作る彼。ねえ、いつか出会う僕らの赤ちゃん。君のお父さんはどうやら気が早いタイプみたいだよ。でも、すっごく素敵なお父さんだよ。


いつかきっとそのは開いて

一年後には3つの笑顔が咲き誇っているのでしょう。


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120806
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