赤い瞳に惹かれていた頃。あの頃は何をするにも彼の許可が必要だった。友だちと遊びに行くにも、随時彼に連絡・報告が鉄則で。本当に雁字搦めの生活だったと思う。息苦しくて必死に藻掻いて、どうにか手に入れた自由はものすごく輝いて見えた。   のも、一瞬のこと。   気がつけば何をするにも『彼』を探してしまっている自分がいた。そのことが恐ろしくて、悍しくて。何度もベッドの上で涙を流した。なのに、その度にちらつく赤い瞳を心の底から欲していることに気づいて、また涙。生活の細部にまで彼が『彼』を残していってしまったのだ。友だちと出掛けても、それが当たり前のように携帯で彼宛のメールを作成してしまっていたり。自ら離れたのに、それが悔しくてくやしくて。だけど、そろそろ限界ってやつかもしれない。今夜もいつものように体の奥から彼を欲しているのだ。右手に握った携帯で彼の名前を呼び出して、通話ボタンに触れる。短い呼び出し音の後、鼓膜を揺すった声に酷く安心感を覚えてしまった。「せ、いじゅ、ろくん」『どうしたんだい、名前』「せじゅ、ろ、くん…」『ゆっくりでいいんだよ』背中を撫でるような優しい声が嗚咽を繰り返す私に落とされる。征十郎くん、征十郎くん、征十郎くん …―――。繰り返し呼んで、彼の存在を確かめる。「会いたい、会いたいよ…」『僕に?』「せいじゅろぉくんに、あいたい…」『僕のこと、好き?』「好きっ、大好きぃ…」『だろうね』くすくすと笑う彼の声に疑問符が飛び交う。どうして。絞り出した声に彼が嬉しそうな声色で答える。『必ず名前は僕のもとに戻ってくると信じてたから』温かいはずなのに冷たい響きの言葉に背筋が凍る。ああ、なんだ、そういうことか。私は最初から彼の手の上で踊らされていたのだ。ゴクリ、唾を嚥下した音がやけに脳内に響いた。




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120804
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テーマ「人外ファンタジー」
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