年に一度、誰しもがこの世に生を受けたことを感謝し、感謝される日がある。もちろん俺にも。まさしく今日がその日なのだ。何度目か分からないほど確認した左手の腕時計をちらり。あと2分、待ち合わせの時間まである。浮き足立つ心を必死に沈め、小さく息を吐く。なんだかんだ言っても彼女とは約半月ぶりの再会である。こちとら高校生なのに対して、向こうは社会人と来た。たった2つの歳の差が、こんなにも2人の立場を隔てる。この数週間、彼女は所謂『修羅場』とやらでひたすら仕事に打ち込んでいて。連絡もままならない、なんてそんな日が続いて…からの今日だ。多少心が躍ることも許されていいはずだ。「幸男くん」鼓膜を揺るがす待ち焦がれた声。焦げ茶色に染められた髪はまとめ上げられ、彼女が仕事帰りだと言う事を示しているようで。「待たせちゃった?」「いや、全然。名前さんこそ走ってきたっしょ?」「あれ、わかる?もう年かなあ…」ふふっと声を漏らして笑う彼女につられて笑う。自然と繋がれた手だって、数センチにまで縮まった距離だって。全てが愛おしくて仕方ないのだ。「年って、名前さんだってまだ若いだろ」「やだ。高校生に言われたくなーい」「二年前まであんたも制服着てたろうが」同じ二歳差だというのに身に着けているものが違うと、180度別の立場になってしまった気がする。学生の頃は許された年の差なんだけれど。「今日はねー、幸男くんの誕生日だから、幸男くんの好きなもの作っちゃうよー」「じゃあ、肉じゃが」「またあ?いいけど」「だって好きッスもん。名前さんの肉じゃが」照れながら伝えた好きに上機嫌になる彼女。単純で、可愛らしい。鼻歌まで奏でる彼女が好きなんだと改めて実感。繋いでいる方の手をきゅっと握れば、きゅっと握り返す。ああ、これを幸せと呼ぶんだっけ。「そうだ、後でまたいうけど、お誕生日おめでとう、幸男くん」「ありがとうございます」出だしは好調。このまま続け、幸せな誕生日。




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Happy Birthday!!
120729
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