※帝光高校パロ


人間というのは自分勝手なイキモノである。と、黄瀬は考える。病という字に気を付け、『病気』と名付けたのも人間だ。読んで字のごとく、病気というやつは気の持ちようで良くも悪くもなる。それは恋愛も然り。例えばあの娘が自身に向けた好意は気の迷いかもしれない。気狂いかもしれない。それを己が勝手に『恋』と判断させたのかもしれない。そういえば恋の病なんて言葉がある。言い当て妙というか、その言葉を造った昔の人に絶賛の拍手を送りたいものだ。

そう、恋の病も気からなのだ。

とまあ、現実逃避する黄瀬の思考を取り戻したのは、目の前の彼女の真っ直ぐな視線だろう。揺るぎない、一本気なその眼差しは彼の持つどす黒さとは正反対の輝きを見せる。くらり、眩暈を起こしてしまいそうだ。さてさて、目の前の彼女は何と伝えたのだったか。ああ、そうだ。『黄瀬くんのことが好きです』と、そう告げたんだった。こう言っては何だが、告白されているのに慣れきっている黄瀬はどういう言葉を返せば彼女を傷つけずに済むかを知っている。ついでに言えば、呼び出しは本日3回目だ。まるで抜け駆けは許さないと言わんばかりの行動。彼女たちは共同戦線でも張っているのだろうか。

「申し訳ないけど、そういう付き合うとか今は無理なんスよ。バスケに集中したいんで」
「ですよね…」

しゅんとした目の前の彼女…ああ、名は確か名字名前。チームメイトと同じクラスで、たまにバスケ部の応援に来ている子だ。自身のファンにしては大人しめで、いつも少しばかり端でコートを眺めていて。あとは…確か差し入れのお菓子が毎度美味しいらしい子だ。らしいというのは手作りなんて、そんな末恐ろしい物を口にできないと考える黄瀬の代わりに紫原が食べ、感想を述べた結果故だ。そう、そんな大人しめな子が突然告白なんて。世の中分からない事だらけである。

「ごめんなさい。まだウィンターカップもあるのにしゃしゃり出ちゃって…」
「いや、気持ちは嬉しいっスから。応えれなくて申し訳ないのはこっちっス」

何時もどおりの営業スマイルを作ればたいていの女の子は赤面する。ほら、目の前の彼女だって。ぽっと染まった頬とぐっと唾を飲み込んだ喉。そういう所も好きです、と言わんとした体の緊張が黄瀬にも伝わってくる。なんて可愛らしいイキモノなんだ、女の子ってやつは。だからオンナノコは好きなのだ。

「でも、体だけなら応えれるっスよ」
「え?」

人間は自分勝手なイキモノだと述べたが、あれにはもちろん黄瀬自身だって含まれる。こうして己の欲望を満たすため、目の前の獲物を喰らおうとしているのだ。彼の目に彼女はどう映っているのだろう。砂漠のオアシスか。はたまた、豪華なフルコース料理か。全てを察した彼女は少しだけ目を見開き、所在無さげに手遊びをする。間合いを詰めれば、頬を染めたまま上を向く視線。こういうタイプの子は初めてだ。きっと彼女もハジメテだろう。震えるほどに興奮する己を抑え、彼女の桃色に唇を落とす。撫ぜた腰がクッと反応を示せば、この娘はもう堕ちてしまう。



この黒い心は末期患者のモノなのです。


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120728
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