「もー、しらない!!」
「知らないってなんだよ」
「言葉のとおりよ!」

売り言葉に買い言葉。幼馴染である和成とは、顔を合わせりゃ言い争ってしまう。別に彼が嫌いなわけではない。むしろ、その逆で、恋愛感情込みで彼のことは好きだ。しかし、この性格が足を引っ張り口論になって、また明日。心配性な母がバイトで遅くなる私のために、和成を頼って寄越しているのは知っている。手放しで喜びたいことなのだが、口をついて出るのは悪態ばかりだ。

「お前さー、もうちょっと素直になったがいいんじゃね?」
「大きなお世話よ」
「あーあ、ちっちゃい頃の名前は可愛かったのになあ」
「今は可愛くなくて悪うござんした」
「別にそうとは言ってねえだろ」

なんてことない彼の一言にも、単純な私の単純な心臓はドキッと音を立てる。平常心を保つように「知ってますー、名前ちゃんは可愛いですー」と返せば、呆れ返ったような溜息が聞こえる。その間も脈打つ心臓は厭に五月蝿い。夜のしんとした空気も、二人の影だけ映す街灯も、誰かが次の句を口にするのを待っているように思えた。

「名前さ、俺がおばさんに頼まれて、いっつもいっつも迎えきてると思ってる?」
「実際問題そうでしょ」
「…これだから、バカは困るんだけど」
「バカバカって…うるさいなあ!和成だって対して変わらないじゃない!」
「変わんだよ、バーカ」
「じゃあどういう理由でわざわざ迎え来てんの」
「心配だからに決まってんだろ」
「…誰が」
「名前が」

和成が立ち止まったことで、私の影だけが不自然に揺れる。同じように心も揺れる。期待半分、不安半分。「うそだ」って返せば「嘘じゃねえよ」って、なにそれ。期待しちゃうじゃん。

「和成さ、そういうのやめなよ。期待させるから」
「そういうのってなんだよ。つーか期待しろ」
「そういうのって、そのタラシみたい、な…え?」
「あ?んなたらし込んでないだろ、俺」
「ち、ちがう!期待!しろって…」
「ああ、そっち?んなもん、そのまんまの意味っしょ」

歩を止めていたのは彼だけでなく、私もだった。そんな状態の私をいつの間にか抜き去ったのは、同じように立ち止まったはずの和成で。数歩先でまた立ち止まり、こちらを振り向くとにっこり笑う。

「俺、名前のことさ、ちっちぇー時から言ってる通り好きなんだよな」
「え…あ、わ、わたしも!」
「おう、知ってる」


そこにはあったよ


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▼奏様リクエスト
高尾くんと強気幼馴染がなんやかんやでくっつくお話
リクエスト有難う御座いました。
120725
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