中学からずっと一緒だったから、力になれるならいくらでもなってあげたいと思っている。男子に相談できないことは私に聞いてくれればいいと思っているし、黄瀬の事は何でも知っているつもりだ。

「で、今度名前っちと出掛けたいなあ〜なんて思ってるんスけど、空いてるっスか?」
「土曜日だよね?空いてるけど、私よりあの子誘ったほうがいいんじゃないの?」
「まーたそれっスか…土曜日は名前っちとがいいんスよ」
「そう?黄瀬がいいってんなら、構わないけど」

高校へと進学してわかったことがある。というか、自然と気づいてしまったというか。目の前の黄瀬涼太という男はクラスメイトのマドンナちゃんに恋をしているようだ。よく彼と一緒に行動しているからなのか、言葉に出さなくても分かってしまったというか。機会があったので問うてみれば、苦虫を噛んだような顔をしたのが証拠だろう。そしてあの日から、私は彼の恋愛成就のために出来るだけ協力しようと決心したのだ。

* * *


「今日の名前っち、可愛いっスね」
「えー?いつもと一緒じゃん」
「そうスかね…」
「んもう、そこでちゃんと返せないと!デートのときに苦労するよ」
「これはデートじゃないんスね」
「何か言った?」
「いや…えっと、今日はこの映画見たいんスけど」

デートの練習、だと思う。隣を歩く黄瀬はさすがモデルというか、どんな服装も着こなせているとおもう。うん、デート服としては満点だ。鼻歌を歌いながら彼の隣を歩けば「上機嫌っスね」と笑う彼。「黄瀬が格好いいからじゃない」と返せば顔を赤くして、立ち止まる。

「ほらほら、まーた照れる。彼氏になったらこれ以上のこと言われちゃうかもなのに、耐性なくてどうするの」
「そうかもしれないっスけど、心臓に悪いというか」
「ふーん…じゃあ慣れる為にも手でも繋いどく?」

どれ、と言わんばかりに手を差し出せば、どんどん眉間に皺を寄せ渋面を浮かべる彼。左手を差し出したまま握られないなんぞ、間抜け以外の何者でもないだろう。同じく眉間に力を込めれば、思い切り溜息を吐かれてしまった。

「名前っちって、残酷っスよね」
「どういうことよ」
「自覚ないのも腹立つんスけど、俺だって頑張ってんだっての。いい加減わかんじゃねえの?」
「なんでそんな怒ってんのよ、意味分かんないんだけど」
「それぐらい自分で考えたらどうっスか。…誘っといてなんですけど、今日はもう帰ったがいいっスよ」
「ちょっと、黄瀬ってば…」

機嫌悪いですと背中で語りながら雑踏に消えていく黄瀬。落ち合ってから15分足らずでの解散である。どうして怒っているのかもわからないのに、追っかけるわけにもいかず。彼の態度になんとなくむしゃくしゃしてきてたのもあって、踵を返したように駅に向かう。怒りに任せた足取りは重い。少し頭を冷やすべきなのだろうか。駅前のカフェでアイスコーヒーでも飲んで落ち着こうなどと考えていると、肩を叩かれる感覚。周りを見渡すも該当する人影はなし。冷や汗がたらり背中を伝う感覚がしたが「名字さん」と聞き慣れた声で呼ばれた時に、全ては解決するわけで。


「相変わらずなんですね、君たちは」
「相変わらずかどうかはわかんないけど」

久しぶりに会った黒子くんは昔より大人びている。中学の頃より伸びた髪も背も、よりその事を象徴しているようだ。声をかけられついでというか、近くのカフェに入ることになった。こじんまりとしたところではあるが、涼しい風と落ち着いた音楽が心静まらせるにはぴったりである。

「黄瀬くんも我慢の限界だったんでしょうね」
「我慢?それと今回の怒りが関係してるっていうの?」
「ええ。そりゃもう、びっくりするぐらい関係してますよ」
「ふーん…」

カラン…――
彼が頼んだアイスコーヒーの氷が溶け崩れた時、私達の関係も少し変わりだしていたのかもしれない…と今なら思う。

* * *

黄瀬激怒事件以来、彼とはまともな会話を交わしていない。というより、避けられているのだ。何度も謝ろうと思って向かっていくのに、目が合うと同時に逃げられてしまう。今までは毎日のように話していた相手とここまで話さないと、なんというか、気持ちが悪い。もやもやとした物を抱えたまま今日も終わってしまうのだろうか。

「うぅー…、名前っち〜!!!」
「へ?え?うぐっ…」

黄瀬とすれ違いざまに目が合ったのだが、思いっきり逸らされてしまう。こうなることまでは予想がついたのだが、その後は予想の斜め上をいった。身長190cm近くあるような大男に後ろから乗っかられて、ぐっと苦しさが増す。もちろん精神的なものではなく、物理的なものだが。首元に回る彼の腕をぺちぺちと叩き訴える。

「ごめん、ごめん、名前っち!怒ってる?俺が悪かったっスよー」
「ちょっと痛いってば!とにかく離して!」

シュンとした彼は怒られて悄気る犬にそっくりである。思わず頭を撫でたくなるのは、母性本能がくすぐられるからだと思う。ひたすら頭を下げる彼に「怒ってないよ」と声をかければ、情けない様な笑みを浮かべた。

「でも、黒子っちと俺の悪口言ってたりとか」
「へ?黒子くん?…ああ、土曜日の。なんで知ってるの?」
「あー…その、やっぱり気になったんで引き返してみたら、二人でいたんで…」
「別に黄瀬の悪口なんて言ってないし、なんで黄瀬が怒ったのか聞いてたの」

なんだ。そう呟くと、ほっと胸を撫で下ろしたような顔をして頭をかく。彼は安心したかもしれないが、此方としては未だに腑に落ちないところがあるのだ。きゅっと口をへの字に結び、納得の行かない顔をしていると名前を呼ばれる。

「それはいいんだけど、なんで私のこと避けてたの?」
「いや、その、なんて言うか、名前っちに怒鳴ったみたいな後だったし」
「すっごくイヤだったんだけど…」
「…へ?いや?」
「なんて言うか、暫く話さなかったの気持ち悪いっていうか。たぶん、いつもと違ってたから、ちょっと寂しかったんだと思うけど」
「なんなんスか、それ…」

ぶうたれたように零していると、口元を抑えて顔を赤くする黄瀬。きっとにまにましているんだろう。覆われていない目元は笑みを浮べている。人がまだ納得していないというのにこの男は、なんでこんなに笑っているんだろう。

「それって、俺がいいようにとってもいいんスよね」
「いいようにって?」
「だから、そういう意味で取るって言ってるんスよ」

撫でられた頬から熱を持ちだしたのは、もしかして黄瀬のいう『そういう意味』なのかもしれない。なんて、単純だろうか。


わたしときみをつなぐだけの


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▼まねきねこ様リクエスト
ちょっと鈍感なヒロインちゃんとヒロインちゃん大好きな黄瀬くんのお話
リクエスト有難う御座いました。
120722
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