12月24日。今日は世間で言うところのクリスマスイブだが、うちみたいな部活にはそういうイベントとか全く関係なくて、相変わらず練習練習練習。男ばっかって訳でもないし、女の子だってマネージャーがいるけど、それでもこの日にこれはむさ苦しさもある。なんて事を青峰っちが言ってきた時に「そうだな」と同感してしまった。
 というのもオレ自身はそういう風には思えなかった。なんてったって部活に来たら彼女がいる。部活に来たら、この帝光中バスケ部に入部してからずっと気になっている女の子と無条件で会えるのだ。大好きなバスケに大好きなメンバーに、大好きで仕方ない彼女。この3つが揃っているバスケ部は素晴らしい場所だと思う。主将から下される無謀としか言えないメニューだって、簡単にこなせる気がしてくるから恋ってやつは素晴らしい。こじつけだが、クリスマスを彼女と過ごせているのだ。部活が休みだったならば、今日という日に言葉を交わすことすらなかっただろうに。ああ、部活サマサマってやつだ。
 それに、こうやって…―――。
 
「何もない家だが、皆でクリスマスパーティーするには十分な広さがあるだろう」
 我らが主将の提案で、いつものメンバーでクリスマスパーティーを開くことになったのだ。さすがに男だけじゃむさ苦しいって青峰っちが駄々をこねたので、桃っちも一緒になったわけだが…。そこで彼女に土下座してもし足りないくらいの感謝をすることになるとは思わなかった。
 彼女は何を思ったのか、オレの想い人であるみょうじなまえちゃんに「一緒に行かない」と声を掛けたのだ。まあ彼女も桃っちも同じ一軍マネだから面識はあるけれど、スタメンにかかりっきりなのは桃っちばっかりで。なまえちゃんはどちらかというと裏方に徹しているというか、それ故に彼女もオレ以外のメンバーも何故を体現したような顔をしていた。
 遠慮を見せていた彼女も最終的には主将命令と言う名の強制連行があり、こうして赤司っちの家にいる。家の前にたった時は渋い顔をしていたのだが、今となってはにこやかな笑顔を見せつつ、黒子っちや紫っちと一緒にケーキをデコレーションしている。まあ、正直そっちが気になりすぎて、こなさなければならないオレの仕事も手に付かない。可愛い可愛い笑顔はオレにじゃなくて、クリームをつまみ食いする紫っちとか、ほっぺにクリームがついてしまった黒子っちに向けられてるし。そわそわというよりも、ぐつぐつと胸が煮えたぎっている。その正体は嫉妬とかジェラシーとかいう醜い感情なのだが。
 はあっと小さな溜息を人知れず吐いたつもりだったが、それは目敏いあの子には見え見えだったらしい。わざとらしい驚いた声を上げて「お鍋の材料が足りない」なんて言うのだ。しかも「なまえちゃん、買ってきて貰ってもいい」って。あれ、オレの気持ちって桃っちに言ったけー…なんて思って彼女のことを見ていると思い切りウィンクされてしまった。
 彼女は彼女で「それは大変じゃん。いいよー、買ってくる」なんて二つ返事で了承しているし。おいおい、なんて思っていたら桃っちがぐいっと肘で脇腹を押してきた。
「なまえちゃん一人じゃ危ないし、きーちゃんも一緒に行ってあげて」
「えっ」
「え、そんな、いいよー」
 驚くオレを余所に、桃っちはぐいぐいと肘でつついてくる。彼女は彼女でへらっと笑って「一人でも大丈夫だから」なんて言ってるし。大丈夫じゃないっていうか、どちらかというとオレの心臓のほうが大丈夫じゃない。頭を抱えたくなるオレなんてアウトオブ眼中って感じで、彼女は出掛けていってしまうし、桃っちにはビターンって音がするぐらい背中を叩かれるし。色々と散々だけれど、彼女を追いかけなきゃって思った時には「待って」なんて聞こえもしない声を上げて、彼女のあとを必死に追いかけていた。
「なんだ黄瀬…。オレも行こうかなあ…ってな」
「空気読んでくださいよ、青峰くん」

 さすがに12月の下旬に差し掛かってくると寒いなんてレベルじゃない。極寒だ。あの子は手袋して出てったっけとか、マフラーもしてたっけとか。ぐるぐると沸き上がってくる疑問で思考回路は精一杯だけど、今は足を前に出すことに集中しなければ。走る…ってほどじゃないけれど、競歩ぐらいのスピードで彼女の事を追いかける。それほど距離はひらいてなかったらしく、すぐに彼女の姿を捉えることが出来た。
 やっぱり手袋してなかったなあ、なんて思いつつ彼女のぷらぷらと動く手をぐっと掴む。見ているだけでも寒々しかった手は、予想通り氷のように冷たかった。
「ストップ、待って」
「え、」
「ん…え、あ、わわわ…ごめん」
 振り向いた彼女の瞳は驚きに満ち溢れていた。視線が定まって動かない場所は、もちろんオレが掴んだ手だ。一気に羞恥心が襲ってきてパッと振りほどいた。「オレも一緒に行くっスよ」と告げると、彼女は申し訳なさそうに笑って「お願いします」と言った。
 歩いている間、今までにないくらいに彼女といろんな事を話した。話してみて分かったことといえば、オレが想像していた以上に彼女はふにゃ〜っとしていることとか。そうかと思えば、しっかり者だったりとか。オレの知らない彼女が垣間見れて、好きって感情がふつふつと沸騰してくる。今日だって皆と過ごせて、本当はすっごく嬉しいなんて笑ってて。出来たらその皆の枠から飛び出してえなあ…なんて考えていた気持ちは、するっと声帯から溢れだしていた。
「オレは今日という日に、こうしてなまえちゃんと出掛けれて、すっげえ幸せ」
 隣を歩いていた彼女の足取りがぴたっと止まる。わっと思って振り向いた先には、これまた「驚いています」を絵に描いたような顔をした彼女がいた。ああやべ、オレすげえ事いっちゃったかも。そう思ったら、かあっとほっぺたに熱が集まっていく気がした。
「…もう、駄目だよ。私期待しちゃうから」
 いつもみたいにへらって笑ったのに、彼女の眉はちょっとだけ垂れ下がっている。あーあー、そういう反応しちゃうわけ。なんだ、そっちだってオレにこんなにも期待させてんじゃん。
 半歩先を行きそうになった彼女の手をもう一度掴む。そこはさっきよりもちょっとだけ熱くって、さっきよりも少しだけ脈が早いようにも思えた。
「期待して欲しい、ってかしてよ」
 手を絡めとるとピクって彼女が反応する。少しだけ俯いた顔から表情は読み取れないけれど、さらりと落ちていく髪の毛の隙間から見えた彼女の耳は真っ赤で。やっぱりオレのほうが期待させられてるなあ、なんて思いながらぎゅっと小さな手を握り直した。
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