うちは両親が共働きってやつで、常に一人でご飯食べたりすることが多かった。別に小さい頃から親と一緒にイベントを過ごすってことがあんまりなくて、そういう感覚がどういうものかなんてわかんないから、今日みたいなクリスマスとかも「あー、またひとりかー」ぐらいにしか思ってなかった。
 のが、ついさっきまでのこと。どうやら今年は隣の家に住んでるおばさんがうちの母さんたちが仕事だってことを知ったらしく、母さんに「おせっかいだと思うけど」とかいって、オレをクリスマスに預かるっていったらしい。そう、だからオレがいるのはお隣のお家だ。隣の家だからって同い年とか、年の近い子供が居るわけでもなくて、ひとりPSPを弄る。おばさんがかちゃかちゃと何かを用意するような生活音がする分、何の音もない家にひとりで過ごすよりはだいぶマシなんだけれど、やってることはいつもと変わらなくて、ちょっとさみしい。
 隣の家には高校生になったばかりのなまえ姉ちゃんがいる。すんげえちっちゃい頃からよく遊んでもらってたらしく、その頃のオレはなまえ姉ちゃんにべったりだったらしい。なんとなく記憶があるけど、確かになまえ姉ちゃんとは一緒に遊んでたなあとは思うわけで。
 そのなまえ姉ちゃんは高校生になったと同時に、近所のケーキ屋さんでバイトを始めたらしい。おばさんはちょっとだけ困った顔で「涼太くんが来るならバイト休めば良かったのに、今の時期は忙しいからねえ」と残念そうにいった。確かになまえねえちゃんがいるかいないかで言ったら、居たほうが断然嬉しいけど。

 夕方の5時半頃。相変わらずPSPで遊んでいると、玄関がガチャリと開いた音がした。おばさんが「なまえかもねー」なんて事をいうから、オレはセーブもそこそこにPSPの電源を切る。ソファの上に投げ置いて、バタバタと音をたてながら玄関に走って向かうと、そこにはケーキの箱らしきものを片手に靴を脱いでいるなまえ姉ちゃんがいた。
「おっせぇ!」
 照れ隠しだと言われればその通りな態度で、なまえ姉ちゃんの脇腹あたりをかるーく殴る。そうしたらなまえ姉ちゃんは「りょーちゃん痛いよ」とくすくす笑った。
「もー、りょーちゃん来るっていうから早上がりしたんだよー」
 ふふっと笑うなまえ姉ちゃんに、ぐぬっと言い淀んでると、くしゃくしゃに頭を撫でられた。ああ子供扱いされてるんだなあって思ったら、ちょっと悲しくなった。さらにはリビングに入ったなまえ姉ちゃんは、おばさんからさっさとお風呂に入るように言われてた。その際にも「りょーちゃんも一緒にお風呂入る?」なんて聞いてきて、あの人の中でオレはずっと小さい頃のままなんだなって思ったら、瞼がきゅっと熱くなった。
 オレはまだ小学生だけど、なまえ姉ちゃんのことが大好きだ。もちろん恋愛的な意味で。正直同い年の女の子なんてガキばっかだし。その点、なまえ姉ちゃんには女性らしさに溢れているし。オレの求めてる女の子っていうのは、なまえ姉ちゃん以外あり得ない。だからこそガキ扱いされるのが嫌なのに。
 悶々とした気持ちを抱えたように膝を抱えてソファで待っていると、お風呂上りという空気を纏ったなまえ姉ちゃんが出てきた。ふわっと香るシャンプーの匂いとか、ちょっと火照った頬とか。全体的に色気がやばくて、小学生のオレには強すぎるというか。思わずむっとした表情を見せていると、なまえ姉ちゃんはキョトンとして「こっちにおいで」と手招きする。
「…なに」
「今日のケーキはりょーちゃんの好きなケーキだよ」
 名前姉ちゃんのへらってした笑顔は、どうしても高校生には見えないくらいに可愛い。オレが好きなものをわかってるなまえ姉ちゃんの気遣いが嬉しいし、やっぱりなまえ姉ちゃん好きだなあって思ったら、さっきまでの悶々とした気持ちがちょっとだけ晴れていく気がした。
「なまえ姉ちゃんってホントずるい」
「えー?」
 だから、そうやって笑うの反則だってば。
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