何故だかわからないけれど、無性に引き裂かれるような痛みが胸を襲った。彼の言った言葉の意味だって知りたくて知りたくてたまらないのに、私の中に靄がかかった感情の正体だって知りたいのに。どうしたらいいのか分からなくて、つうっと頬に涙が伝った。
 彼が必死になって阻止したケータイには、今日のクリスマスパーティーがどうして中止になってしまったのかというメールが入っていた。どうやら今日のクリスマスパーティーはパーティーという名の合コンだったらしい。中止になってしまったのは、相手のメンバーのうち一人が事故にあってしまったからだと。そして、その事故にあったオトコのコが『キセリョウタ』くんだということも、そのメールには記載されていた。
 これは本格的に彼に会えないのかもしれないな。もしも、なんてことを願ってみたけれど…そんな奇跡は今日だけだったのかもしれない。本当に短い時間だったけれど、彼と過ごした暖かな時間を思って、私はそっとさっきとは違う涙を流した。

☆ * :
 : ○ ※


 今年のクリスマスは、去年とは違ってみっちりバイト三昧だ。何が哀しくてバイト先で時間を潰す幸せそうなカップルたちを眺めなくてはならないのだ。すっかり荒んでしまった私の呟きにバイト先の先輩は「そんな事言ってっから彼氏できねえんだよ」と頭を小突いてきた。ちくしょう、今に見てろよ。来年はお前なんかが思わずギャフンと言いたくなるくらい、かっこいい彼氏を連れて此処にきてやるからな。
 さすがクリスマス…といったところだろうか。レジも注文も途切れること無くやってくる。あいた時間を見つけて、空いているテーブルをさっと拭く。今日はなんというか、労働ロボットにでもなった気分である。
 さすがに数時間立ちっぱなしはキツいなあ…なんて考えていた時だった。見覚えのある金色が注文をしにやってくる。さらりとホットドリンクを頼む声は酷く聞き覚えがあった。だけど、あの日見た時よりも随分大人っぽいし、人違いかもしれない。そう思っているのに、ここで声を掛けないと一生後悔するんじゃないのかとあの日の私が背中を押すのだ。
「あの、」
「へ?」
「き、キセくん?!」
 お釣りを渡してしまえばお別れだ。そう思った時には目の前の人の腕をがっしりと掴んでいた。とてつもないくらい大胆な行動に出てしまったな。ちらりと見上げた相手の顔は酷く困惑している。あ、これはやばい。最悪のパターンだ。
「えっと…、誰、っスか」
「あ、…そ、す、すみません。人違いでした」
 へにょんっと垂れ下がった眉毛を見た時に、これは違う人なんだろうなって思った。もう一度だけ会いたいなんて事を思っているから、こうやってそっくりさんに過剰反応してしまうのだ。目の前の男の人の下がった眉毛につられるように、私も気落ちしてしまう。何やってるんだろう。いくら会いたいからって、この勘違いは痛々しい。
 鼻の奥がきゅうっと刺激されて視界がじんわりと熱を持ちだした時だった。しっかりと聞いてないと聞こえないくらい小さな、だけどやっぱり聞き覚えのある彼の声で「嘘っスよ」と目の前の男の人が言った。
「またこの日に会えたっスね、なまえさん」
 黄瀬涼太っス。そう言って笑った顔は、あの日見た笑顔のまんまで。今日までの一年間燻っていた感情の正体が、ぱあっと晴れ渡って行く気がした。
――― なんだ、私…この人のこと好きなんだ。
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