目が覚めると、昨日確認せずじまいだったケータイは大量の受信と着信を知らせていた。それも全て昨日一緒にパーティーに行くはずだった友人からだ。何かあったんだろうか。
 時刻は最後の連絡があってから1時間ほど経っていた。こんなに連絡が入っているということは急ぎの連絡なのだろう。そう思って、履歴の一番上にあった友人に電話をかけ直した。
「あ、もしもし」
『もしもし、なまえ?…やっと出たー』
 どうやら私は相当友人たちに迷惑をかけていたらしい。ケータイをちゃんと携帯していたのかとか、あんな早い時間帯から今まで眠りこけていたのかとか。質問と言うよりは一方的に責められるような言葉に、私の口からは自然と「ごめん」なんて謝罪の言葉が溢れていた。
『まあいいや…、本題はそれじゃないし』
「え?」
『アンタさ、昨日のパーティーが実は合コンだったって知ってた?』
 なんだそれは。そんなの初耳だったと伝えれば、彼女はやっぱりなという空気を醸しながら「だよねえ」と笑った。
『まあ其処は置いといて』
「あまり置いときたくないんだけど、」
『まあまあ…で、突然中止になった経緯なんだけどさ』
 友人曰く、中止になったのはどうやら合コンの相手側で問題が起こったらしい。というのも、一番そのクリスマス…合コンを楽しみにしていたオトコのコが、待ち合わせ場所に向かう途中で事故にあってしまったというのだ。なんとお気の毒な。どうしても他人ごとにしか思えないその出来事に「あらまあ」なんて言葉を溢していると、友人は少しだけ困ったような声色で続きを話しだした。
『でさ…、そのオトコのコ、どうやら今日の未明に亡くなったみたいなんだよ』
「え、まじで」
『うん。…あ、ここからが本題ね。その合コン相手だった奴らからさ、なまえもお通夜に参加して欲しいって連絡があってね』
「は、何で」
『いや、その詳しくは知らないんだけどさー…』
――― アンタ、キセリョウタくんって知ってる?
 友人がは震わせた6文字ないし5文字は、とても聞き覚えがある名前だった。彼女は今なんと言った。きせ、りょうた…?
「ちょ、ちょっと待って…もう一回聞くけど、その人が亡くなった時間って」
『え? だから、今日の未明…』
 ボスっと鈍い音を立ててケータイが私の手から滑り落ちる。待ってよ。なにそれ、今日の未明って。それって私の部屋から同姓同名の彼が消えた時間と一緒じゃない。それって、どう考えても…。
 落としてしまったケータイから友人の心配するような声が聞こえる。だけど今の私にはそれを拾うだけの気力が残っていなかった。
―――どうしても今日キミに会いたかったんスよ。
 それはつまり、今日という日に自分が居なくなってしまうから会いたかったってこと? どうして、私と。
 その答えは通話が途切れてしまったケータイが昨日の内に受信したメールが知っていた。一度だって見たことのない英数字の羅列。そこに記されていたのは「キミのことが好きでした」なんて、至極シンプルな告白の言葉。だけど今の私ならば、それが誰からの言葉で、どんな想いで伝えようとしたのか分かる気がした。
「キセ、くん…」
 ぽたぽたと枷が外れてしまったように溢れてくる涙を止める方法は、今の私もこれまでの私もこれからの私も知らないままだ。
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