今日は誘われるがままにクリスマスパーティーに参加する予定『だった』。『だった』というのは、待ち合わせ場所に向かう途中だった先程、友人から「今日は急遽中止になっちゃったよー」なんて泣いたような顔の絵文字を添えた連絡が入ったからだ。もちろんクリスマスに、それ以外の予定が皆無だった私は踵を返す他なかった。
 大学生の一人暮らしで独り身のクリスマスは寂しいなあ。そんなことを思いながら我が家の玄関を思い切り開ける。と、其処には予想だにしなかった光景が広がっていた。
「え、」
 玄関を上がった先の隅っこで膝を抱え俯いたままのオトコのコがいた。
「え、いや…誰?!」
 あまりの衝撃に慌てふためいていると、オトコのコはゆっくりと顔をあげる。あー予想外にも綺麗な顔だー。って、今はそんなこと関係ない。どうしてキミは私の家にいるのかな。それをそのままオトコのコに告げると、彼はへらーっと苦笑いを浮かべた。
「あー、オレ怪しい者じゃないんスよ。ほら、幽霊、みたいな」
 そう言った彼は目の前の壁に手を突き刺す。すうっと壁に吸い込まれるように消えていった彼の手に、驚きすぎて泡を吹きそうになったのは内緒だ。
「いや。いくらなんでも幽霊って言われて『ハイそうですか』って受け入れるのは」
 ちらりとオトコのコを見てみると、今度は泣きそうな笑顔で「そうっスよね」と呟いた。あの、その、なんていうか、イケメンのそう言った反応は狡いと思います。渋々受け入れるほか無いじゃないですか。
「てか、オネエさんはクリスマスにひとり? なんか寂しいっすね」
 このオトコにデリカシーってもんは存在しないのか。
「パーティーに行く予定だったけど、急遽中止になったの」
 ムスッとして告げた途端、オトコのコはすっと哀しい顔をした。見間違いだろうか。そう思って瞬きをし終えた時には、彼は「じゃあ俺らでパーティーしようよ」と、これまたへらーっと笑っていた。
 
 パーティーといっても我が家の冷蔵庫にはそういうものが作れるほどの材料は揃っていない。ありあわせのもので、それとなくパーティーっぽいものを作ることとしよう。そう思いながらじゃぶじゃぶと野菜を洗う。どうやらというか、やっぱりというかオトコのコはものが掴めないらしく、私の側にたってそわそわとしている。あ、そういえば…。
「ねえ」
「はいっス」
「せっかくだから名前教えてよ」
 私がそういうと、彼はさっきの軽い笑顔とは違って、しっかりとした笑みを浮かべた。「キセリョウタっス」そう言った彼の表情は曇りなんてひとつもなく、冬の晴空の下にいるような気持ちになってしまった。
 料理を作っている間、彼と会話をはずませる。その中で分かったことといえば、彼、キセリョウタくんは私と同い年であったということ。私のキャンパスの近所にある大学に通っていたということ。なんて、いろんな彼が垣間見えてきた。だからそっちに夢中になっちゃって、間違えて二人分作ってしまったのだ。「キセくんは食べれないのにね」と私がへらへら笑うと、彼は「なまえさんの手料理、食べたかったっス」と言って寂しそうに笑った。
 時間帯も時間帯なのでお風呂に入ることにする。ぱたぱたと入浴の準備をしていると、キセくんが後ろで「オレも一緒にお風呂入りたい」なんて言ってきた。いくら幽霊とはいえ、ついさっきまで赤の他人だった男の人だ。さすがに…というか、どう考えても恥ずかしいに決まっている。「バカじゃないの!」と手元にあったクッションを彼に向かって放り投げた。でもやっぱりそれは彼の体をすっと通り抜けていくだけ。そしたら彼はまた寂しそうに笑った。
 お風呂から上がるとケータイがチカチカと受信を知らせていた。どうやら今日一緒にパーティーに行く予定だった友人からの連絡らしい。一体なんだろうかと思いながら確認しようとするも、「ダメ!」というキセくんの悲痛な叫びがそれを阻止した。どうしたんだろうか。少しだけ焦ったような表情をする彼のことを不思議に思って見つめていると、「もうちょっとだけパーティーに集中しよ」と取り繕ったように笑うのだ。だから私はそれ以上踏み込めなかった。
 もうすぐ今日、12月24日が終わろうとする頃。キセくんが今までに無いくらいに寂しい顔をした。「どうかしたの」そろそろ寝る時間だと思った私はベッドメイキングをしていて、少しだけ彼とは距離が出来ている。
「お別れの時間っスね」
「へ…?」
 そう告げると彼の体はゆっくりと透明度を増していった。…ちょっと待ってよ。いきなり現れたかと思えば、すぐにさようならって。なんにも理解できてないのに、自分だけ全てわかってるみたいな顔で行っちゃうのは酷い話だよ。意味分かんない。そう呟きながら彼のもとにやってきた時は、容易に彼の向こう側が見えてしまうほど透けてしまっていた。
「ね、キセく」
「オレね、どうしても今日だけはキミに会いたかったんスよ」
 待って。伸ばした右手は空を切った。彼は消えてしまった。一体全体なんだったってんだ。突然現れたかと思えば、あっという間に消えてしまって。意味深な言葉だけ残して。この胸の靄々は、一体なんて言葉にしたらいいんだろうか。そうだな、


深くは考えずに眠ってしまおう。きっとこれは夢だから。
もしも出来る事ならば、もう一度会って確かめたいよ。
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