オレの名前はリョウタ! なまえちゃんに飼われてるミニチュアダックスフントのオスっス。今日はクリスマスっていう日らしくって、なまえちゃんは朝から気合入れてオシャレしてたっス。「リョウタはいい子でお留守番しててね」ってオレの大好きな笑顔でなまえちゃんが言ったので、今日はおとなしくなまえちゃんからもらった毛布の上で寝てるのだ。
―――ガチャ。
 玄関の開いた音がしたっスね。あ、なまえちゃんがか細い声で「ただいま」って言ったような気がする。お出迎えしなくちゃ。そう思ったオレの短いけど自慢の足はなまえちゃんの元へと急いだ。
 ミニチュアダックスフントは所謂胴長短足っス。でもオレはこの体型を気に入っている。だってなまえちゃんが「リョウタは歩く時おしりがふりふりーってなって可愛いね」って言ってくれたからだ。単純だって言われたって仕方ない。だってオレ、なまえちゃんの事大好きっスもん。
 駆け寄ってったなまえちゃんはどこか元気がない。どうしたんスか。オレが元気にしてやるっスよ。そう思いながら、なまえちゃんの足元に向かってジャンプする。
 そしたらなまえちゃんは膝を崩すような勢いでしゃがみ込んだ。そのままオレのことを抱き上げて、オレの自慢のブロンドヘアに顔を埋めた。
「どーしよ、リョウタ…ふられちゃったー…」
 ぽたり。なまえちゃんの綺麗なお顔から涙が溢れた。どうして泣いてるんスか…って、フラれたからっすよね。だからあんな男やめときゃよかったのに。
 残念ながらオレにはなまえちゃんの涙を拭ってやれる人間様みたいな柔らかい指は存在していない。すんすんと顔の匂いを嗅いだ後に、ゆっくりとなまえちゃんの涙を舐めとる。最初こそ吃驚した表情を浮かべたなまえちゃんだったけれど、そのあとはへにゃあって笑って「今日はずっと一緒にいてね」と言った。
 久しぶりになまえちゃんの腕の中で眠ることとなった。少しだけ柔らかくて、オレとは違うんだなあって感覚がするなまえちゃんの体は、すっごくすっっごく大好きだ。だけどオレを抱きしめてくれるなまえちゃんの事を抱きしめ返す腕がオレにはない。あーあ。人間だったら良かったのにな。そうしたら今だってぐすぐすと涙を流すなまえちゃんをやさしく抱きしめてあげることが出来たのにな。人間だったら、なまえちゃんを泣かせるような男を片っ端から排除して、オレがなまえちゃんの彼氏とやらになるのにな。
 
 翌朝、オレはご主人様であるなまえちゃんのキョーレツな悲鳴で起こされることとなった。ひーだとか、きゃーだとか、そういうものだったら可愛いのに、なまえちゃんは大きな口をめいいっぱい開いてギャーっと叫んだのだ。うーん、頭に響くっス。
「んもー…、どうしたんスか」
「だっ、だあだだっだ、誰よアンタ」
「…へ? オレ、リョウタっス、よ……」
 って何でオレなまえちゃんと会話できてんだ。あれ、なんで体がすーすーするんだ。何で人間みたいな体…って、え、人間?
「わー、どうしようなまえちゃん。オレ人間になっちゃったっスー!」
「は? え? なに、意味分かんな…」
 どうしようと思いながら体をばたばたと触っていると、おしりの辺りに違和感。あ、ふさふさしてる。これはもしかして尻尾かな。
 なんて思っていると、どうやらななまえちゃんも同じ答えに辿り着いたらしい。「この垂れ耳と尻尾のもふもふ…、リョウタだわ」あ、オレ、耳も付いたままなんだ。
 経過はどうあれ、オレはなまえちゃんの事を抱き締める腕を手に入れたわけだ。ぐつぐつと沸騰してくるこの喜び、どうやってなまえちゃんに伝えたらいいんだろう。せっかくだから貰ったばかりの腕でなまえちゃんを抱きしめてしまおう。
「しかし一体なんでリョウタが…」
「クリスマスの奇跡っスよ。だってオレ、ご主人様抱きしめてえって、すっげえ思ったから。神様にお願いしたんス」
 がばりと犬と同じような…って元犬なんスけど、それくらいの勢いでなまえちゃんのことを抱き締める。なまえちゃんの匂いは犬の頃よりも薄く感じるけれど、全身で感じるなまえちゃんの温度がオレを刺激する。犬だったとは話しにならないくらいになまえちゃんを感じることが出来た。
 ああ神様。今日一日限りだったとしても、オレはなまえちゃんとずっとこうしいたいんスよ。だってオレ、なまえちゃんの事が世界一好きなんスもん。
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -