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目が合ってしまうジューダスとカイルとリアラの話




 ぱちん、と目が合った。


「なに、ジューダス?どうかした?」

「いや、」


 僕と目を合わせた張本人は、僕の歯切れの悪い言葉に首を傾げて歩き去る。跳ね回る金髪が、太陽の光を浴びて眩しいくらいに輝いている。眩しさに目を細める。首を傾げたいのはこちらの方だ。独りごちて、溜め息。
 歩き出そうと顔を上げる。ぱちん、と目が合った。まただ。


「ジューダス?何かあったの?」

「……いや、」


 僕と目を合わせた張本人は、金髪の持ち主と同じように、僕の歯切れの悪い言葉に首を傾げて歩き去る。背中のリボンがふわりと揺れた。首を傾げたいのはこちらの方だ。二度目の溜め息。


「辛気臭いわね」

「うるさいぞ」


 溜め息を聞き咎めたのは隣を歩く変人だ。手元でかちゃかちゃと機械を操作している。随分と器用なものだ。そして呑気なものである。魔物に襲われでもしたらどうするつもりなのか。そう問うたところで、あんたたちに任せるに決まってるでしょ、という答えが返ってくるのはわかりきっている。わかりきっている問答をするほど暇ではない。
 気を取り直して歩みを進める。少し前を、少年と少女が仲睦まじげに寄り添っている。見慣れた後ろ姿。よく飽きないものだ、と思った矢先。ぱちん、と目が合った。


「「ジューダス?」」


 声が揃った。呼ばれた自分の名前に、今度は僕の方が首を傾げる番だった。しかし、見れば僕の名前を呼んだ二人も同じように首を傾げている。一体何だと言うのだ。
 隣からふふ、というささやかな笑い声がした。どうやら笑いを堪えているらしいそいつは、手に持った機械で顔を隠しながら肩を震わせている。何が可笑しい。僕がそう尋ねる前に、あんたたちさあ、とそいつは笑いを含んだ声で続けた。


「見すぎ」

「え?」

「だから、見すぎよ」

「なにを?」

「わかんないの?」

「……何の話だ」


 いつの間にか隣にやってきていた少年少女と三人揃って首を傾げた。その様子を見たそいつは、けたけたと愉快そうな笑い声を上げて、僕らを順番に指さした。


「カイルとリアラはジューダスのこと見すぎ。ジューダスはカイルとリアラのこと見すぎよ。なんなの?あんたたち、お互いのことを視界に入れておかないと落ち着かないわけ?」


 まあたしかにいつもなら三人横並びだものね。気持ちはわからなくもないけど。
 続いた言葉に、頬に熱が集まるのがわかった。道理でやたらと目が合うわけだ。無自覚だった事柄を、傍から眺めていた人間に指摘されるほど恥ずかしいことはない。横に並んだ少年少女が同じように頬を赤く染める。彼らと同じ顔をしているのだろう自分を想像して、居た堪れなさに歯噛みした。
 僕らの無意識を指摘したそいつは、やはり愉快そうにけらけらと笑って、随分と仲がよろしいようで、と歌うように告げた。そして、私の護衛はいいからあんたは二人と先に行きなさいよ、とも言う。しっしと追い払うように振られた手は、既に手元の機械を叩いていた。
 顔を上げる。ぱちん、と目が合う。


「ハロルドの言う通りなんだよなあ。なんか、落ち着かないっていうか」

「そうよね。居心地が悪いというか、収まりが悪いというか」


 首を傾げた少年少女、カイルとリアラが、自然な流れで僕の両脇に立つ。それから、ひどく満足そうに、二人は大きく頷いた。


「うん!これ!」

「そうね!これよね!」


 僕の右手をカイルが、左手をリアラが掴む。そしてそのまま僕の手を引いて歩き出す。


「ねえ、ジューダス!ジューダスもこれだって思わない?」

「しっくりくる感じがしない?」


 ぱちん、と目が合った。両隣から覗き込んでくるその目の中に、僕の顔が映っている。
 たったそれだけのことに日常が戻ってきたような心地になって、その自分の考えの、あまりの恥ずかしさに。僕は顔を上げられない。顔を上げてしまえば彼らと目が合ってしまう。いつもと同じように。


「たまには素直になれば?」


 足を止めた僕たちの横を通り過ぎながら、悪戯な笑みを浮かべたハロルドがそう言った。安心したならそう言えばいいのに。やはり歌うようにハロルドが告げたその言葉に、カイルとリアラが嬉しそうに笑うのが気配でわかる。ますます顔が上げられない。
 いっそこいつらから離れなければ、こんな恥を知ることもなかったのに!
 咄嗟に思い浮かべたその言葉に、その場に穴を掘って埋まりたくなったことは言うまでもないだろう。




知りたくなかった!




20210121


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