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参戦イベントのときのジューダスの話




眩しい。眩しい、眩しい、まぶしい。


「なぁ、やっぱり待ってくれ。どうして俺と話すときそんな苦しそうにするんだよ」


ああ、眩しい。目が焼かれてしまいそうだ。


「ジューダスは自分の問題だって言ってたけど本当に俺は無関係なのか?俺、ジューダスのこと放っておけないよ」


目を開けていられない。合わせるなんて以ての外。目の前に立つ男が。その言葉が。眩しくて、眩しすぎて、それは最早痛みを感じるほどだった。暴力的なまでの直射日光が、僕の目をこれでもかとばかりに焼く。焼き尽くす。まるで、お前の罪と向き合えと言われているようなその眩しさ。眩しい、まぶしい。目が眩む。


「もし何かあるならちゃんと話してほしい。このままじゃ俺……、ジューダスのこと何も分からないままだ」


光が僕を貫いた。やめてくれ。痛いんだ。その眩しさを直視できるほど、今の僕は強くもない。やめてくれ、見ないでくれ。その青い瞳で僕を焼かないでくれ。叫んでしまえばどれほど楽になっただろう。
眩しくて、眩しくて、痛くて、それでも僕は、喉の奥を塞いで僕を殺そうとする言葉たちを、吐き出す術を知らなかった。じりじりと焼かれる。いっそこのまま。塵も残らぬように、この光に焼き尽くされてしまえば。そうすれば、この眩しさから逃れることができるのだろうか。視線は揺るがない。眩しさが、光が、瞼の裏に焼き付いて、内側から僕を殺そうとする。


「スタンさん!」


ふと日光が和らいだ。僕の目を覆う淡い影。ともすれば閉じてしまいそうだった目をこじ開けて、影の正体を知る。少女がそこに立っていた。その姿が、目の前の太陽とよく似た少年の姿と重なって見えた。
少女が言葉を重ねていた。光が強すぎる太陽にも負けず、少女がまっすぐ立っていた。僕のことを庇うように、僕が焼き殺されてしまわぬように、僕がこのまま消えてしまわぬように、目を閉じて、諦めてしまわぬように。少女は凛と、僕の前に立っていた。


「はじめはわたしたち何も知らなかった」


はじめは。僕は少女のことを疑っていた。少女も僕のことを疑っていた。互いに警戒していた。近い境遇を持った僕らを結び付けるものは何も無くて。ただ旅を共にする相手。それだけだった。


「けど、ジューダスとわたしたちにはちゃんと絆がありますから」


そうだ。いつの間にだったのだろう。少女が"仲間"になったのは。僕にとっての少女が、少女にとっての僕が。"絆"だなんて言葉で結ばれたのは、一体いつだったのだろう。
僕は思わず少女の名前を呼んだ。少女は僕を振り返ると、目元を和らがせて微笑んだ。大丈夫よ、ジューダス。そんな声が聞こえてきそうな笑みだった。そんな少女に、どんな顔を返すのが正解だったのか。僕にはわからなかった。


「ジューダス」


光が"僕の名前"を呼んだ。ぎらぎらと、見る者すべてを焼き尽くさんばかりの眩しい眩しい光は鳴りを潜めて、今はただ、少女の陰からそっと僕を照らすだけ。


「俺のこと嫌いなのかもしれないけど、俺はお前と仲良くしたいと思ってるから」


どこか泣きそうな顔で笑った太陽はそのまま駆け足で僕の前から立ち去った。僕はその後ろ姿を見送ることしかできなかった。だって、そうだろう。今更、どんな言葉をかけろと言うんだ。今更、何を言えと言うんだ。今更。あの男に。何も知らないあの男に。僕にはどんな言葉をかける権利も資格も無いというのに。どんな言葉をかけたとしても。眩しい、眩しい、あの太陽を。陰らせることしかできないというのに。


「……ジューダス。スタンさんもルーティさんも優しい人よね」


何もかもを乗り越えたつもりだった。過去を受け入れて前に進んでいたつもりだった。こんなにも簡単に、こんなにも呆気なく崩れるものだとは思ってもみなかった。救いを求めるように背中に手を伸ばして、そこには何も無くて、僕の手は、虚空を彷徨っている。行き場を失くした僕の手は、いつだって何も掴むことはなく、ただそこで揺れている。


「いっそのこと、裏切り者と罵ってくれた方が楽なのにな」


喉の奥を塞いで僕を殺そうとしていた言葉が、転がり落ちるように外へ出た。自嘲するような音を伴ったそれは、確かに僕の願いだった。自分勝手な我儘だった。罵って、責められて、詰られて、そうしてもう、お前なんか仲間じゃないと。そう言って切り捨ててくれれば。あの眩しさで焼き殺してくれれば。僕はいくらか楽になれただろう。僕は、こんな世界で生きていたくはなかった。この世界は、僕が生きるにはあまりに眩しかった。


「たとえジューダスのことを知ってもスタンさんたちはそんなことしないわよ。ジューダスだって本当はわかってるでしょ?」


強い言葉に、顔を上げる。そこにはあの男とは違った眩しさを纏った少女の瞳があった。


「素知らぬ顔で……、またやり直せとでも言うのか」

「そうじゃないわよ」


少女は僕の前へと一歩踏み出して、何も掴めないまま揺れていた僕の両手をそっと握った。少女は笑う。


「どんな過去の思い出であっても、全てがジューダスの生きた証なんでしょう?大切なのは、自分自身がどうするか決断して前に進んでいくこと」


忘れちゃった?少女が悪戯に微笑んで、握ったままの僕の手を、少しだけ強い力で握り直す。僕は少女の強い視線に射抜かれたまま、ああ、と独言ちた。


「ジューダスがわたしたちに教えてくれたのよ」


ああ、そうだ。僕はもう、あの眩しい男の仲間だった僕ではないのだ。僕は、目の前に立つ少女と、その隣でいつだって笑っている少年の、そして彼らの仲間なのだ。危なっかしくて放っておけなくて、僕が教え導いてやらなければと思っていて、その実、僕のずっとずっと前を走っている彼らの。仲間であると。そうでありたいと。願っていたのは、望んでいたのは、僕自身だったというのに。


「目の前を、どう生きるか」

「そうよ。だってジューダスはもうジューダスとして生きるって決めたんだもの」


だから、と続く少女の言葉を遮って、それらしい言葉で少女をその場から離れさせる。それ以上聞いてしまえば、どこまでも彼らに甘えてしまいそうだった。寄りかかってしまいそうだった。それでは何も変わらない。誰かを支えにしなければ生きていけなかったあの頃とは違うのだと、僕はもう知っている。
だから。少女が紡ごうとした言葉のその先を、聞かなくてもわかっていた。僕の生きる場所は、少女と少年と、彼らと、その中にある。僕らの間に結ばれた"絆"は確かにある。もう迷わない。大丈夫だ。そんな単純な、とっくの昔に出ていた答えを忘れてしまうだなんて笑ってしまう。今、ここで、"ジューダス"として生きると決めた僕の太陽は、たったひとつしかないのだ。


「……僕が助けるつもりだったが、実際は逆だったかもしれないな」


誰に聞かせるでもなく落とした言葉はどこか弾んでいて。何を悩んでいたのだと、何を恐れていたのだと、自分自身を笑い飛ばす。僕はもうひとりじゃないというのに。
見上げた空には燦々と笑う太陽がひとつ。太陽が僕の名前を呼ぶ声が聞こえた気がして、また笑う。


いつか、あの男とも話せる日が来るだろうか。"リオン・マグナス"としてではなく、彼らの仲間の"ジューダス"として。新しい関係を築くことができるだろうか。そしてその時は。あの瞳を、笑みを、眩しいと思わないだろうか。逃げることなくまっすぐに、受け止めることができるだろうか。自問する。その答えは、今はまだ、必要ない。
その答えは、きっと。少女や、その隣に立つ少年や、それから彼らと一緒に生きていくうちに、自ずとわかるだろうから。




Let's dance together!




20200630


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