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 バレーボールという競技を知っているだろうか。
 排球。コート中央のネットを挟んで二チームでボールを打ち合う。ボールを落としてはいけない。持ってもいけない。三度のボレーで攻撃へとつなぐ、球技である。
 私は知っている。バレーボールという競技を知っている。その球技に出会って、打ち込み、時には傾倒して、第一線から離れてもなお、バレーボールとつながっている人々を知っている。彼らはバレーボールをやっている。或いは、バレーボールをやっていた。彼らは彼らの人生の中のどれくらいかの時間を使って、コートの中で汗を流し、互いの拳を打ち付け合いながら、コートのこっち側の味方として、ネットを挟んだ敵として、バレーボールをやっていた。
 きらきら輝く水銀灯、シューズが床を擦る音、ボールの弾む音。応援団の掛け声、吹奏楽部の演奏、和太鼓の音、響く校歌。会場中を巻き込むアナウンス、スティックバルーンを叩く音、歓声、歓声、歓声。コートの中央、ネット越し、楽しげに睨み合う彼らにはそのどれもが遠いことだろう。
 スポーツは勝敗が決まるもので、勝ち続けなければ次はない。負けてしまえばそこで終わり。私はずっとそう思っていたし、きっとスポーツに打ち込む人ならば一度はそんなことを考えたことがあるだろう。勝たなければ意味がない。負けたら何も残らない。だけどそれは誤りで、諦めなければ何も終わりはしないのだと、私はあの時、知ることができた。
 高校一年の初夏。全国大会への切符を賭けたその試合で、そのチームは一度、負けたという。その時、失意に沈む彼らに、先生はこう問い掛けたのだそうだ。負けは弱さの証明ですか。訳も分からず先生を見上げた彼らに、先生は静かな声で、その問いの続きを紡いだ。君達がそこに這いつくばったままならば、それこそが弱さの証明です。負けは終わりなどではない、そこから立ち上がるためのきっかけで、まだ更に先へ進めるということでもあるのだと、彼らは思ったのだそうだ。
 同じ年の冬、全国大会。私たちのチームは再び負けた。それでも彼らは立ち止まらなかった。何度床に膝をついたって何度も立ち上がる。何度も負けて、それでも諦めず、ただ誰よりも長くコートの上に立っていたいと、その願いだけを一心に。立ち上がっては上を向いて、ただひたすらに、バレーボールを続けている。そんな彼らの姿を、私はずっと見てきた。
 あの日、あの場所で、バレーボールをやっていた彼ら。今はもうそれぞれの道を歩いている。私だってそうだ。バレーボールを続ける人、それ以外を選ぶ人、どんな形であれバレーボールと繋がり続ける人。私たちは未来へと進んでいる。確固たるつながりを持って、私たちは今もずっと歩き続けている。あの日、確かに敗者だった私たちは、だけど決して、敗者のままではいられない。私たちは何にでもなれる。諦めなければ、できるまでやれば、必ずできるのだから。
 それを証明するように、あの日、コートの中央、ネットを挟んで、固く握手を交わした彼らが、今はそこに立っている。
 あの日、あの場所で、バレーボールをやっていた彼ら。ボールを落とさぬようにつないだ彼らは、今もなお、誰かへボールをつないで笑っている。世界を舞台にして、そのてっぺんを取るために。てっぺんの更に上を行くために。

 あの日、確かに敗者だった君たちへ。一度は地面に這いつくばった君たちへ。泣いて、泣いて、悔しくて、投げ出そうとして、できなくて、立ち上がって歩き出した、その勇気を持った、未来を目指した、私たちへ。彼らはコートの中を縦横無尽に駆け巡りながら、そうして、その身をもって、私たちの背中を強く押す。

 高く高く、何処までだって、飛べ。

 高く飛んだ先。その向こう。私たちは何者にでもなれる。何故なら私たちは、等しく未来へ挑む、挑戦者だからだ。




飛ぶための翼は君の背に




20200720


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