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「なんで世界っていろんなことを『好き』か『嫌い』で分けちゃうんだろうな」


薄暗い帰り道、国見がぽつりと言った言葉だった。その時は、こいつは一体何を言っているんだろう、くらいにしか思わなかったけれど、今思うとそれは、彼なりの弱音だったのかもしれない。本当のところはわからないけれど。


その頃の俺たちはいろんなことに疲れていて、逃げ出したくて、前に進みたくて、でもできなくて、苦しくて、誰かに助けてもらいたかったのだと思う。頼りにしていた先輩たちが卒業して、バレーを愛しすぎている同期について行けなくなって。真っ暗で、何を道標にすればいいのかわからなくて。


バレーが『好き』で、あいつが『嫌い』。
今の強いチームが『好き』で、それを掻き乱すあいつが『嫌い』。
そうやっていろんなことを『好き』か『嫌い』に振り分けて、だから仕方ない、って無理矢理飲み込んで。噛み砕いて、飲み干して。それでも消化しきれない想いが今もまだ腹の中でぐるぐるしている。


「なあ、金田一」


あの時と同じような、薄暗い帰り道。国見が言う。


「前に、なんで世界は『好き』か『嫌い』で分けちゃうんだろうなって言ったこと覚えてる?」


問い掛けに頷いて、顔を上げる。国見は笑っていた。


「それ、俺の勘違いだったみたい」


勘違いってなんだ。なんでそんな笑い方するんだ。
だって、世界にはその二択しかなくて、だからその枠に当てはめて、『嫌い』な方を切り捨てて、だからあいつは、王様になって。だから、だから。


「別に、好きとか嫌いとかじゃなくてさ。あの頃の俺らには、そう考えるしかなかったんだよ」


今の俺らには、違う考え方ができるじゃん。それでいいんだよ。

「もういい加減、あの頃の世界にこだわるの、やめよう」


国見が言う。今の彼が背負うのは、北川第一の文字じゃない。今の俺たちが背負うのは、青葉城西だ。それから、


「久しぶり、影山」

「おう」


あいつが背負うのも、もう俺たちと同じものではない。だから、いいだろ。そろそろ昇華してやっても。


世界には『好き』か『嫌い』かだけじゃなくて、そんな簡単に振り分けられるものだけでもなくて、どこにもぶつけられない気持ちだってあって、それで傷付いたり傷付けたりもする。
けど、それでも捨てられないものがあって、繋がり続けるものもある。いつの間にかなくなっているものだって、当然ある。


「久しぶり、金田一」


あの頃、消化も昇華もしきれなくて、ぐるぐると心の中で渦巻いていた真っ黒い気持ちとか。


「…久しぶりだな。影山」


名前を呼ぶ気まずさとか、気恥ずかしさとか。そんな感じの、簡単には振り分けられない感情たち。胸の内にたくさんの感情を抱えて、その重さに負けずに進んでいく。


「…お前らほんっとぎこちねえ!」


また国見が笑って、俺と影山は同時にお互いを見る。目が合ったが最後。どちらからともなく笑い出して、三人で大笑い。
いつか大人になって。今を思い出して。『好き』か『嫌い』の選択肢しかなかった小さな俺たちを、愛しく思える日が来ればいいと、そう思いながら。




20181231


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