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爪が切りたくなった。
爪を切って、短くなった爪に色を乗せる。そこから、二週間。ほんの少し伸びた爪の色を落として、また新しい色を乗せる。更に二週間。二度目の色が薄れてきて、爪の根元から自爪が覗いて、ああ、今日も生きている、と安堵なんだか落胆なんだか、よく分からない感情まで一緒になって覗いてくる。

爪が切りたくなった。
爪に乗せた色を落として、薄っすら黄ばんだ爪をぼやりと眺める。この爪は死んでしまったのだな。さようなら、さようなら。爪切りを死んでしまった爪に当てて、ぱちり。ぱらぱらと散らばる、もう死んでしまった爪たちは、それでもある時は、間違いなく俺の一部だった。

指先をヤスリで磨く。傷付けないように、傷付かないように。丸く丸く。触れるものすべてに優しくあれるように。

そうしてようやく、新しい色を乗せる。黄ばんだ爪が色に覆い隠される。シンナーのにおい。指にはみ出したって構いやしない。色を。色を乗せる。出来上がった爪を、新しい色になった爪を、光にかざす。きらりと光る。不器用な指先。この指先は、なんのために。だれのために。


「お前の爪って、いつもきれいだよなあ」


磨いた指先を掴んで、まじまじと見つめる大きな目。指先を彩る赤が、黄が、青が、緑が、白が。大きな目に映り込んできらきらと光る。ちかちかと、きらきらと。眩しくて。


「こんなにきちんと手入れされてるなら、あんな魔法みたいなトスが上げられるのもわかるな」


指先を、掴む。小さな手に。掬われて、救われて、そして、磨いたこの指先に、意味を与えられて。
色を乗せて、赤青黄色に彩って、生きている。生きていく。塗り潰されて、切り離されて。死んでしまった爪の分まで。落とされた色の分まで。二週間前の自分の分まで。息をして、生きていく。


「…あたりまえだ、」


これは、お前に最高のトスを上げてやるために必要な儀式なのだ。
そう言うと、大きな目を瞬かせて、煌めかせて、楽しげに指先を撫でて、その指先を強く掴んで、引き上げる。力強く、上へ、上へと。更に上へと。早足で駆けていく。


「よし!じゃあトス!トス上げてくれ!」


おれのために磨かれたこの美しい指先から、魔法のようなトスを、おれに。
そう言って笑う、眩しいほどに真っ直ぐなこの小さな相棒に。指先を、この爪を、捧げてしまうのも悪くない。そう思ってしまった日から。爪が切りたくなった。丸くなるまで磨いて、色を乗せて。美しく彩って。
なにかのために、だれかのために。バレーのために、トスのために、チームのために、相棒のために。この指先を、生かしていく。




指先に流星




20170410


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