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神様は何故、言葉というものを生み出してしまったのだろう。


人類の叡智とも言える「言葉」。それは、私たちの世界に当たり前に根付いているものだ。誰もが言葉を話し、すべての物事を言葉で表す。私たちは言葉によってコミュニケーションを取るし、言葉があるから私たちは寄り添える。
だけど、あの二人にとって「言葉」は不要なものだった。そんなものなくても通じ合える。そんなものなくても分かり合える。そんなものなくても、彼らは彼らの想いを互いに伝えられる。伝えられてしまう。まるで、最初から同じ人間だったみたいに。一つの思考のように。寸分の狂いもなく、共有することができる。
「言葉」なんてものがなくても。二人が二人であることには変わりなくて、二人が一人になることも絶対になくて、それでもやっぱり彼らは、ただ「ひとつ」なのである。


神様は何故、言葉というものを生み出してしまったのだろう。そんなものなくても、同じ速度で、同じ歩幅で、同じだけの熱量で、隣合って走っていける二人を見てしまうと、そう思ってしまうのだ。


誰かが何かを見つけて、新しく名前をつける。その「何か」に相応しい言葉を送る。そうやって新しい言葉が生まれる。そうやって言葉は増える。思考に、物体に、植物に、動物に、気持ちに、現象に、すべての物事に、名前をつける。それが「言葉」のはじまりなら。
誰か、どうか。あのふたりに。名前をつけてくれないか。




日向が飛ぶ。高く高く、ただ空を目指して飛ぶ。飛べ、と書かれた真っ黒な横断幕。二階席に掲げたそれを掴まんとばかりに、日向が飛んだ。そして、影山くんは。心の底から楽しそうに笑う。初めて見る、生き生きとした笑顔。きっとこれが彼本来の表情なのだろう。笑う、笑う、影山くんの視線の先で、日向が。影山くんと同じ顔で、笑って、飛んだ。
日向が飛んだ。高く高く、頂に手を伸ばす。その日向の手の先を、まあるいボールが通り過ぎていく。日向と影山くんの間に、相変わらず言葉はない。だけど、私には確かに聞こえた。彼らが、彼らにしかわからない言葉で。叫び合うのを。私は、確かに聞いていた。

共鳴してる、と思った。同じ思考を共有して、同じものを見て、同じことを考えている。同じ景色の中に身を置いて、日向は影山くんと、影山くんは日向と。共鳴している。だから日向は飛んでいる。だから影山くんは日向にトスを上げない。だから二人は、あんなにも楽しそうに、バレーをやっている。三セット目、三点ビハインド。そんな状況で、日向と影山くんが、彼らのやりたいバレーをやっている。だから彼らは、笑っている。


神様は何故、言葉というものを生み出してしまったのだろう。こんな時、どういう言葉を当てはめるのが正解なのかわからない。世界中の言葉を尽くしたって、きっと表せない。日向と影山くん。二人でひとつ。彼らは言葉を求めない。求めるのはただ。最高の瞬間だけ。
日向が再び空に舞う。日向と影山くんが、音無き言葉で叫んだ。私には当然聞こえないけれど。確かに、彼らは叫んでいた。
俺がいれば、お前は最強だ。おれがいれば、お前は最強だ。そうやって、互いを最強にして。二人は叫ぶ。さあ来い、お前には負けない、と。ただひたすらに、或いは自分自身に、叫び合っていた。


私は言葉というものの無力さを知る。
そうして、言葉にできないものがあることも。


ああ、早く。誰か名前をつけてくれないか。このふたりに。ひとつであるふたりに。彼らに相応しい言葉を。神様、どうか。




うつくしきものの名は




20190902


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