senyu | ナノ





好きで、好きで、好きで、ただ好きだった。


笑顔が好きだった。何気ない言葉が好きだった。私の頭を撫でる温かい手が好きだった。誰かのために必死になれるところが好きだった。なにもかもが好きだった。
だから嫌いだった。とても嫌いだった。


好きなのに、嫌いだった。それは私にとって未知の感情で、痛くて痛くてたまらなかった。

私は今までの私でいられなくなることが嫌だった。今までの私たちでいられなくなるのが嫌だった。変わりたくなかった。でも好きだった。だから嫌いだった。

こんな感情は知られたくなかった。何も変わらず笑い合っていたかった。私は長く生きるけど、あの人はそうじゃないから。私は彼が死ぬまでこの感情に鍵を掛けておくつもりだった。私ならできると思っていた。
でもできなかった。いとも簡単に弾け飛んだその鍵。私が押し込めていた感情は勢いよく吐き出された。私にも何が起こったか分からなかったけれど、あの人はもっと分からなかったと思う。


私はただただ幼かった。あの人は私より大人だった。泣き叫ぶ私をそっと抱き締めて、あやすように背中を撫でた。その手も苦しくなるくらい優しくて、私は泣いて泣いて泣いて、涙が枯れてもまだ泣いた。

叫んでも怒鳴っても殴っても喚いても引っ掻いても噛み付いても、あの人はゆっくり私の背中を撫でていた。大丈夫だよ、そう言いながら微笑んでいた。あの人の心臓は変わらずとくん、とくんと心地いいリズムを刻んでいて、あの人は心の芯まで優しいのかとまた泣いた。


私はあの人が好きだった。ずっと傍で見ていた私が、あの人のことを一番理解してると思っていた。あの人が強くなっていく姿を知っているのは私だけだと誇らしく思っていた。
どんな姿でも、私はきっとあの人が好きだった。あの人があの人である限り好きだった。ただ、好きだった。だから嫌いだった。


ばか、と言うと、うん、と言った。嫌い、と言うと、うん、と言った。大嫌い、と言うと、うん、と言った。好き、と言うと、うん、と言った。
大好き、と言った時だけ、ありがとう、と言った。あの人は笑っていた。


好きで好きでたまらなかった。だから嫌いだった。
私はあの人が大好きだった。だから私のことが大嫌いだった。


好きだよ、と私は叫んだ。私を離したあの人は、うん、と言った。
好きだよ、と私は言った。振り返ったあの人は、うん、と言った。
好きだよ、と私は囁いた。背中を向けたあの人は、うん、と言った。
大好きだよ、と私は泣いた。あの人は、きっと笑いながら、ありがとう、と少しだけ泣いた。


好きで、好きで、好きで、ただ好きだった。好きだったあの人はもういない。
だって私は変わってしまったから。だってあの人は変わってしまったから。私が好きだった私も、私が好きだったあの人も、もうどこにもいない。だから嫌い。






正しい恋の終わり方
(嫌いになっちゃえば、もうおしまい。)






「おはよー、アルバさん」

「おはよう、ルキ」


好きで、好きで、好きで、ただ好きだった。昨日までの私と、昨日までのあの人。嫌いになった私たち。いなくなった昨日までの私たち。


「今日はどこまで行こうか?」

「そうだなあ。この前言ってた村まで頑張れる?」

「うん!いざとなったら私はゲートで移動するからアルバさんだけ頑張ってね!」

「ひどい!でもアバラにヒビ入るのは嫌だしなあ…」


もういない。どこにもいない。嫌い。嫌い。私が嫌った私たちはもういない。


だからね。ほら。気付けば、今日もこうして。あの人を好きで、好きで、好きで、ただ好きな私が、ここにいる。






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