senyu | ナノ






追い掛けて、追い掛けた、その先に。願って、願って、叶わないと諦めていた、未来があった。
飽きることなく夢見た未来は、オレを嘲笑い、蹴落とし、そうして放り出すばかりだった。オレはいつしか未来を望むことをやめ、夢見た未来は叶うはずがないと悲嘆し、目を閉じたのである。
見えるのは過去ばかりだ。目に飛び込んでくるのは残酷な現実ばかりだ。追い掛けても追い掛けても、未来には手が届かない。家族と、親友と、笑い合う未来など。ただの幻想だと、言われているようで。




星の数を数えていた。眠れない夜に空想する。いくつ星を数えたら未来へたどり着けるだろうか。平和になった世界を親友と歩く未来。家族と温かな食事を囲む未来。旅路の合間に出会った友人と、戦友と、名前を呼びあって、くだらないことで笑って、幸せだと感じるような、そんな未来。

星の数を数えていた。もう数えた星の数など忘れてしまった。赤、青、黄色。遠い遠い空の彼方から輝く星ですら、オレを嘲笑っているようだった。もう諦めろよ、と。囁く声が、蠢く影が、ずるりずるりと、引き込もうとする。

星の数を数えていた。いつの間にか隣で共に数を数えている人がいた。ひとりからふたりへ。そうしてさんにんへ。さんにんで星の数を数えていたら、なんだか妙にくすぐったくなった。ひとつ、ふたつ、みっつ。声が重なり合うことがこんなにも心地良いものだなんて、知らなかった。誰も教えてくれなかった。彼らがはじめて教えてくれた。

星の数を数えていた。何もない空間で、目を閉じれば鮮明に思い出す。きらきらと瞬く星と、隣で笑う彼らと、声と、楽しかったという感情。彼らはオレがいなくなっても星を数え続けるのだろうか。オレはもう数えられないけれど、彼らが代わりに数え続けてくれるのだろうか。


星の数を、数えよう。


そんな声に、目を瞠る。顔を上げれば、満天の星空。そうして、差し出されているのは。小さな手。少しだけ大きくなった手。ひとつ、ふたつ、みっつ。手を合わせて、声を合わせた。星が笑っていた。星は嘲笑ってなどいなかったのだ。オレの行く末を案じ、いつまでもいつまでも見守ってくれていた。オレが彼らを見ていたように、彼らもまた、オレを見ていたのである。

星の数を数えていた。数えているうちに、あんなにも焦がれた未来が、この手の中にあった。平和になった世界を親友と歩く未来。家族と温かな食事を囲む未来。旅路の合間に出会った友人と、戦友と、名前を呼びあって、くだらないことで笑って、幸せだと感じるような、そんな未来が。気付けば手の中できらきらと輝いていた。


もう星の数を数えなくていいのだ。明けぬ夜に怯えることも、ひとりの寒さに震えることも、追い掛けてくる過去の手から逃げることも、もう必要ない。
横を見れば彼らがいる。冷たくなって震えていた手を取って、歩いてくれた彼らがいる。その手の中に未来を持った彼らが、オレに笑い掛ける。未来はこんなにもあたたかいのだと、教えてくれた彼らがいるから。もう大丈夫だ。




「ねえねえ、ロスさん!次はどこに行こうか!」

「ロスはクレアさんといろんなところに行ったんだろ?どこが楽しかった?何が美味しかった?」

「そうですね。…次は海を目指しましょうか。この辺りの村で食べた魚が美味しかったんですよ」

「海かあ!私、海には行ったことないんだ!」

「へえ、そうなんだ。ルキはもう行ったことあるものだとばっかり」

「勇者さんは海に行ったことあるんですか?」

「遠くから見たことはあるよ。でも近くで見たことはないなあ」

「じゃあ次の行先は海で決定!ね、いいでしょ?」

「うん!美味しいもの食べて、海でいっぱい遊ぼう!」




どこまでも、どこまでも続いていく道を、ただひたすらに真っ直ぐ歩いていく。未来を夢見ながら、なんでもないことに笑いながら、隣を歩く彼らの手を取りながら、ぬくもりに包まれながら。




今度はどこまで歩こうか。どこまででも歩こうか。彼らがいればきっと、どこまで歩いたって楽しいのだろう。

疲れたら帰ればいい。待っている人がいるのだから。ただいま、と戸を開ければ、おかえり、と微笑んでくれる人がいる。夕飯は何にする、問い掛けるやわらかい声に応えるのは、オレではないけれども。それでいいよな、そうやって名前を呼んで、快活に笑う人がいる。帰る家がある。待っている家族がいる。

歩くのに飽きたら親友のところへ行けばいい。オレを見付けたら犬のように駆け寄ってきて、突拍子もないことを繰り返して、ああだこうだと引っ切り無しに言葉を連ねる。あれやろうぜ、と手を引いて走り出す。オレの言葉などお構いなしだ。走って、走って、世界を走る。隣を走る、親友がいる。

物足りなくなったら、そうだな。また、彼らの手を取ろう。名前を呼んで、手を差し出すだけでいい。彼らは顔を輝かせて、そうしてオレの名前を呼ぶのだろう。一緒に行こう、そうやって笑って、オレが差し出した手を、思いっきり引くのだ。星を数えに行こう。未来を捕まえに行こう。未来のもっと先を見に行こう。彼らがいれば、それも夢ではないのだろう。叶わない夢などないのだろう。


追い掛けて、追い掛けた、未来を。その手の中に収めて。オレはただ、真っ直ぐに、歩くだけでいい。
道の先が見えずとも、見上げれば、数えられることを心待ちにして、星たちが笑っている。未来へと歩き出したオレたちを、やわらかな光とともに見守ってくれている。




ああ、しあわせだ。






星を数えた少年の話
(ひとつ、ふたつ、みっつ。)
(声を合わせて星を数えて、そうして眠りについたなら。)







140706


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