○SQあるばさんとWebくれあしおんさん
(割と時系列バラバラ/ただのネタ含む/会話文多め)
(ついったで書き散らかしたの)
▼であってみた
「いつまで付いてくるんだよ」
「えっと…とりあえず街まで?」
「一人で行け」
「ごめんなさい!一人でなんか行けません!助けてください!」
「……」
「く、クレアシオンさん…?」
「グズグスするなこのグズ。捨てるぞ」
「はいっ!…はい?」
「…何だ」
「えっと…その、ありがとうございます!」
「……」
130710
▼ぼくのなかま
「ボクの仲間に、アナタにそっくりな奴がいるんですけど。そいつドSなんですよ。いっつもボクを殴るし、ボクが魔物にやられてたってお構いなしだし、ボクをいじめることに生き甲斐を感じてるような奴で」
「……」
「でも、すごく優しいんですよ」
まるでクレアシオンさんみたいでしょ、と少年は笑った。
130717
▼やかましい
「クレアシオンさん?」
「く、クレアシオンさん…!」
「ぎゃああ!クレアシオンさんっ!助けてくださいいい!!」
たった一人で歩いていた道。前も後ろも見ることは無く、ただひたすら目的を見据えて歩いていたのに。隣に一人増えただけで、こんなにも余所見が増えてしまった。
「クレアシオンさーん!」
しょうがないだろう。目を離せばすぐにどこかへ行ってしまう。気が付けば魔物に襲われている。名前に振り向けば、へらりと気の抜けた笑みでこちらを見ている。
だから、しょうがない。前も後ろも、変わらず見ることはないけれど。隣を行く物好きなガキ一人くらい、視界に入れていたって死にはしないさ。
130717
▼ゆうしゃとは
「お、ええぇ…っ」
吐いた。そりゃもう、胃とか腸とか、そんなものが全部口から飛び出すんじゃないかってくらい。当然今朝食べたものは全部出たし、胃液も一緒に出た。
吐いて、吐いて、全部吐いても、あの光景が目に焼き付いて離れない。飛び散る赤。悲鳴。助けを請う濁った目。静かに燃える、青の炎。
「なんでだよ…」
真紅の瞳に問い掛ける。彼は揺れない。いつも通りの無表情で、剣に付着した赤を振り払う。
「なんでころしたんだ…っ!」
目の前でひとつの命が消えた。涙が止まらない。どうして、どうして。
「なんで…、くれあしおんさん、」
だって彼は勇者なのに。こんなの、おかしいじゃないか。
邪魔な奴だったから殺した。いつものことだ。立ちはだかる敵を殺して何が悪い。何故泣き喚く。ああ、煩い。
「…って、…あ、しおんさんは…っ、ゆうしゃ、なのに…ぃ!」
ああ、煩い、煩い。俺は魔物も殺すし、人も殺す。進むためには必要だからだ。もう、命を奪うことに何の躊躇いも、苦しみも、無い。
だから、ほら。早く、早く気付いてくれ。オレは勇者なんかじゃないって、早く気付いてくれよ。頼むから。
130718
▼ふらふら
「あ、とり」
あっちへふらふら。
「あ、うさぎ」
こっちへふらふら。
「あ、きつね、」
「いい加減にしろ」
首根っこを掴まえて、猫のようにぶら下げる。へらりと笑ったそいつの後ろに、ぶんぶんと振られる犬の尻尾が見えた気がした。
「だって、」
「何だよ」
「すっごく楽しいから」
とりあえず殴っておこう。
130718
▼いきること
「クレアシオンさん…、これ、何ですか?」
「ウサギソノママヤイターノ」
「どっかで聞いたことあるような名前!」
「さっさと食え」
「え、でも、」
「お前だって旅してたんだろう。野宿のとき何食ってたんだ」
「えっと…戦士が、用意してくれてて…」
「そいつが用意した中に肉は無かったのか」
「……」
「旅に肉なんて持ち歩けない。肉が食いたきゃ狩るしかない。お前が食ってたその肉だって、その辺に生きてた動物のものだろうが」
「……っ」
「生きるには食うしかない。今までだってそうやって生きてきたんじゃないのか」
「…う…ぇ…」
「食うのか、食わないのか」
「食べ…ます…」
「ほらよ」
涙をぼろぼろ溢しながら、子供は元は兎だったものにかぶりついた。甘やかされて、汚いものを見たことがない子供。
歯を突き立て、噛みちぎり、咀嚼して、飲み込む。一連の動作の中で、しかし子供が口に入れたものを吐き出すことはなかった。
「…っおい、しい…」
子供は綺麗だ。無垢だ。ああ、羨ましい。
130719
▼ばかにするな
「あれー?シーたん、いつの間にお仲間が増えたのー?オレ知らないんだけど!何勝手に独りじゃなくなってんだよー」
「煩い」
「はは!そんな子供に何が出来るって?シーたん勇者やめてベビーシッターにでもなるの?」
「う、」
「うるさい!クレアシオンさんを馬鹿にすんな!」
「…お前は黙ってろって」
「馬鹿にすんなっ!クレアシオンさんはなあ…、クレアシオンさんは…っ」
「うわ、泣いちゃったよ。めんどくさいなあ、このガキ。殺しちゃっていい?」
剣を振りかぶる。煩くて煩くて、ただただ、煩くて。衝動のままに、剣を、魔法を、放つ。笑い声。
「あはは!弱くなったな、シオン!」
ああもう、煩い。
130721
▼やさしい
ボクはとても弱かった。前も、今も。ボクは、ひとりじゃ何も出来なくて、ひとりで何かをしようともしなくて。自分の意志なんて無くて、ただ流されるままに生きてきて。
だから、勇者に憧れたんだ。自分の意志を持つ人。誰かのための何かになれる人。誰からも必要とされる人。強くて、とても優しい人。
ボクはひとりじゃ何も出来なかった。あの人はずっとひとりで生きてきた。ボクが思っていた勇者とは全然違ったし、自分のために生きていると言い聞かせているような人だったし、ずっとずっと、ボクの知らない誰かを必要としている人だった。
でも強くて優しかった。あの人はやっぱり、勇者なんだと思う。
「だからね、ボクも、あなたみたいに、強くて、優しく、なりたい」
ひゅーひゅーと、自分の口から漏れる耳障りな呼吸。ボクを見下ろす寂しくて優しい目。彼は何を言うわけでもなく、ボクに手を伸ばした。
「強く、なりたいんだ」
彼の両手から溢れる温かくて優しい光に目を閉じる。やっぱり、優しい人だ。
130722
▼わらうとまけよ
「帰りたいとは思わないのか」
「え?うーん、そうだなあ。帰りたくないと言えば嘘になるけど、帰りたいかと言えばそうでもないです」
「……」
「ボクが帰ったら、クレアシオンさんはどうするんですか?」
「別にどうもしない。ルキメデスを倒しに行くだけだ」
「ひとりで?」
「当たり前だろうが」
「じゃあやっぱり、ボクはまだ帰らないよ」
いつものようにへらりと笑って、子供はオレの手を取った。やわらかい。すっかり慣れた体温に、無意識に息を吐く。あたたかい。
「大丈夫です、クレアシオンさん」
ボクはここにいるよ。ひとりじゃないよ。聞こえる副音声。それになんだか無性に腹が立ったから。
「…撲殺!」
「え!?なんで!?ちょ、いたっ!痛い痛い!ちょっと!クレアシオンさん!ぶほっ!」
程よい位置にある頭を殴り、腹を殴り、背中を蹴り飛ばした。騒ぐ子供。半泣きだ。愉快である。
「…くっ…」
込み上げてくる笑いを必死に噛み殺して、顔を隠す。表情筋が悲鳴を上げる。歪む口元。
熱くなる目頭には、気付かないふりをして。久し振りに聞く自分の笑い声に、オレでも子供のように笑うことが出来るのだなと。どこか他人事のように考えて、また少しだけ笑った。
子供はオレの足の下で這いつくばっていた。
130723
▼そのころ
「アルバさんいないねえ」
「捕まったって情報も聞かないのにな」
「世話が焼けるなあ」
「全くだ。どこ行ったんだか」
「…異世界とかだったりして」
「…は?」
「パラレルワールドとか」
「…まさか。いくら勇者さんが阿呆でもそれはないだろ」
「だよねえ!」
「……」
「……」
「……」
「ねえロスさん」
「…言うな」
130728
▼ともだちになりませんか
彼は、知れば知るほどボクの憧れた"勇者クレアシオン"とは程遠い存在のように思えた。絵本の中の彼は、誰もが憧れるような人で。分け隔てなく優しく、誰にでも救いの手を差し伸べる。世界の平和のために魔王を倒す決意を秘めた人。
だけど彼は違う。平和のために、なんて、口が裂けても言わなかった。
彼は不思議な人だった。
優しいのにひとりでいる人だった。どこを見てるのか分からないのに、どこか一点を真っ直ぐ見つめている人だった。無表情で命を奪うのに、とても痛そうな顔をする人だった。彼の頭に付いている青い炎はいつでもゆらゆら揺れていた。
彼は何も話さなかった。ボクはただそこにいた。
「クレアシオンさん」
「なんだよ」
「ともだちになりませんか」
彼はその真っ赤な宝石のような目を見開いてボクを見た。揺れる、揺れる、赤い目。彼は何も言わずに俯いた。
ぼさぼさの長い前髪に隠れきれなかった口元がゆるく弧を描く。そうして彼は首を横に振って。ボクを拒絶した。ボクはただ、笑った。
ああ、彼はなんてやさしい勇者様なのだろう。
130730
▼おわりのはじまり
嫌だ、と叫び出したかった。弱いボクにはそんな声を出す力もなかった。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。
目の前に立ちはだかる魔王。魔王を追い続けた勇者。決着のときに居合わせた、何も持たないただの人間。ボクは泣くことも叫ぶことも出来ず、ただただそこに居た。喉の奥から絞り出す。彼の名前。
「…クレアシオンさん、」
ボクには何の力もなかった。彼を止めることも、彼を説得することも、彼の背負った荷を分け合うことも、彼の笑顔を見ることも、彼と共に歩くことも。何も、何も出来なかった。それなのに。それなのに。どうして。
「がんばれよ、アルバ」
どうして、今になって、どうして、笑うんだよ。
「楽しかったぜ」
それだけを言い残して、彼は魔法を発動させた。眩しくて咄嗟に目を瞑る。光が溢れている。遠ざかる声。
目を開けたとき、そこには、勇者も、魔王も、誰もいなかった。まるで元からボクだけがそこにいたみたいな静寂。何の痕跡もない。
クレアシオンさん、落とした言葉は情けなく震えていて。ボクは、何もない空を、掴む。手のひらの中は空っぽで。
ボクと、クレアシオンさんの旅は、ここで終わったのである。
ボクはずっと、クレアシオンさんが消えていった場所を見ていた。何も残ってはいなかった。いないと思っていた。
きらり、地面で光る何かがあった。ボクはふらふらと、光に近付いた。きらり、太陽の光を反射しているそれは、丸い焼き物のようだった。
汚れきったそれの土ぼこりを払う。見えてきたのは、どこか見覚えのあるマーク。子供の落書きのような、そのマークを。ボクは、見たことがある。
「…これ…!」
胸元で揺れる勇者の証。それとよく似たマーク。きっとこれが、彼の勇者の証だったのだ。ぼろぼろ、目から涙が零れた。ボクは彼をずっと勇者だと思っていたけれど。きっと彼も、そんなに強くない、何かのためにしか生きられない、ボクと同じ人間だったのだと。そこで初めて気が付いた。
「あー!アルバさん!やっと見つけた!」
「本当にパラレルワールドにいるとは…。勇者さん、オレはあんたを尊敬しますよ…」
聞き慣れた声がした。空中に真っ黒い穴が開いたと思ったら、見慣れた二人組が穴から顔を覗かせていた。ボクの仲間の二人だった。ぼろぼろ、涙は止まらない。
「うわ、何泣いてんですか。その汚い顔で近寄らないでください」
「戦士、」
「アルバさん、お迎えが遅くなってごめんね」
「ルキちゃん…!」
ボクは手の中のそれを握り締めた。彼が残した唯一のものだったから。それを、捨て置くことは、できない。
「ボク、もっと強くなる」
憧れていたあの人に少しでも近づけるように。ひとりぼっちの勇者を救えるほどに。
甘えてばかりではだめだ。もっと、もっと。強くならなければ。次に会ったとき、彼の隣に立つにふさわしい勇者になっていなければならないから。
「もっと、強くなるから」
だからクレアシオンさん。ボクが強くなったその時は、また一緒に旅をしませんか。ボクと、ボクの最高の仲間と一緒に。もう、ひとりきりにはさせないから。
ボクは、腰のベルトに赤いスカーフを巻いた。あの人の目と同じ色。スカーフの隣に、勇者の証も巻き付けて。ボクのあの時の決心を忘れないために。あの人のことを忘れないために。
ボクは一体何のために強くなりたかったのか、ずっと覚えておくために。
ねえ、クレアシオンさん。あのとき、人を傷付けることを恐れて、何かの命を奪うことに怯えて、ぴいぴい泣いていたボクが。勇者レッドフォックス、だなんて。かっこいい二つ名を付けられたと知ったら。あなたはいつかみたいに笑ってくれますか。
ボクと友達になってくれますか。
いつかのどこかのだれかのはなし
「…なんだ…?どうなってる?」
目を覚ましたら見知らぬ場所だった。見知らぬ空気、見知らぬ空の色、見知らぬ荒野。頭がひどく痛んで、状況が把握できなくて。オレはあの何もない真っ白な空間で、魔王と共に眠りについたはずなのに。
「くそぉ…頭いてぇ…」
痛む頭を抱えて、辺りを見渡した。どれだけ見たってそこは見覚えのない場所で。どこだここ、だなんて一人ごちていた。
「逃げろぉお!!」
遠くから、声。必死に危険を知らせようとするその声に振り返って、まず目に入ったのは巨大な竜巻だった。視線を下ろして、風に掻き乱された柔らかな茶髪に、ぶは、と笑った。オレはどこにいたってあのガキを拾う羽目になるのだな、とか。そんなことを、考えた。
「そこの人、逃げてぇえ!」
必死な形相、見たことのある顔。涙こそ浮かべていないものの、その情けない顔はどこからどう見ても、あのガキだ。オレの姿を見ても泣き喚いたりしないから、きっとあの時のガキと同一人物ではあるまい。
「あ?逃げる?その程度の竜巻で?」
魔王の封印だとか、今がいつでここがどこなのか、とか。そんなものを全部全部、仕舞い込んで。オレは、笑った。
オレが勇者であった証は、きっとあの時のあのガキが、後生大事に持ち歩いているに違いない。
「オレを誰だと思ってんだ」
まあでも。あのガキから勇者の証を返してもらうまで。勇者クレアシオンは、しばらく休業だ。
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